ライブドア前社長の堀江貴文被告の初公判が東京地裁で開かれた。公判にはネクタイを締めて出廷した。記者会見や選挙戦も含めTシャツなどで通してきた堀江被告だが、裁判官の心証をよくするにはやはりネクタイが必要と考えたのかもしれない。
ただ、服装とは違い検察側とは全面的に対決し無罪を主張した。違法行為を認め短期間で保釈となった「村上ファンド」前代表の村上世彰被告とは対照的な対応だ。
今回の裁判では検察側と弁護側が事前に主張を突き合わせ、論点を整理して公判を開始する方式がとられた。裁判員制度の導入を控え、裁判期間を短縮する効果がこの方式には期待されている。
事前折衝の結果、争点は絞り込まれている。自社株の売却益を売上高に計上した粉飾決算や、企業買収や業績で虚偽の情報を発表したことなどで、そのいずれについても弁護側は堀江被告の関与を否定したり、検察側の誤認だとして、無罪を主張している。
王子製紙による北越製紙のTOB(株式の公開買い付け)のように、競争力を高めたり事業内容の効率化を進めるうえで、企業にとってM&A(企業の合併・買収)は重要になっている。
ライブドアの場合、株式分割やM&Aのたびに株価が急騰を繰り返した。そして、膨らんだ時価総額を背景に資金調達力を高め、ニッポン放送株を大量取得し、フジテレビの経営権までめざした。
しかし、粉飾決算などでたらめな情報開示によって高株価が演出され、それによってM&Aを仕掛けていたのなら論外で、経済社会の秩序を壊す重大な犯罪だ。
もっとも、M&Aをめぐる攻防は、情報開示のあり方や買収防衛策の導入など、法的に微妙な問題を抱えている。堀江被告は検察側と全面対決を表明している。どのような行為が違法なのか、裁判で具体的に示してもらいたい。
堀江被告の刑事責任については裁判所が判断を下すが、ライブドアがなぜあのような行動をしたのか、裁判とは別に制度的欠陥を明らかにし、改善する必要がある。
東京証券取引所のマザーズ市場や大阪証券取引所のヘラクレス市場など、上場基準の緩い新興企業向け市場がいくつもつくられ、株式新規公開を手がける引受証券会社も数多い。取引所と証券会社が客引きを競うような形で、新興企業に株式上場を促し、上場後の審査も甘いことが、ライブドア事件の背景にあった。
新興企業は、その将来性を判断して投資するベンチャーキャピタリストと呼ばれるプロの投資家のチェックを経て株式を上場するのが筋だ。しかし、日本の場合、ベンチャー企業を育成するプロの投資家の層が薄い。そうした環境の中で取引所、証券会社間の過当競争が続いている。
ライブドア事件の反省から証券取引法が改正され罰則強化などが行われた。しかし、対症療法的な措置が目立つ。事件の背景にある日本の株式市場が抱える問題についても、抜本的対策が必要だ。
毎日新聞 2006年9月5日