【ジュネーブ=原克彦】原子力安全条約の締約国・機関は9日、条約の改定を議論する外交会議をウィーンで開き、既存の原子力発電所にも新規原発と同様の厳しい安全策を義務付ける改定を見送った。代わりに、既存原発の定期的な安全審査と改善策を促す「ウィーン宣言」を満場一致で採択したが、宣言に法的拘束力はない。
条約の改定議論は東京電力・福島第1原子力発電所での事故が発端。新たな原発の建設で、事故が起きても長期的な放射能の放出を防ぐよう義務付けるのと同時に、既存施設にも新規原発と同じ目標を適用する改定案が提出されていた。賛成派の欧州勢に対し、既存原発の維持費増加につながることなどから米国が強く反対していた。
改定を提案したスイスとそれを支持した欧州連合(EU)は米国の説得を断念し、投票での決着も見送った。条約では締約国・機関が安全確保への対応を点検会合で相互に評価する仕組みをとっている。安全基準を巡る対立が深まれば、点検会合の運用にも支障を来すと判断したという。