「彼らを殺すことでこの戦争に勝つことはできない」。米国務省の広報を担当するマリー・ハーフ氏は2月16日にMSNBCテレビでこう語り、この週ワシントンで繰り広げられたテロリズムに関するメディア論争に火をつけた。「人々をこれらの集団に駆り立てている根本的な原因に迫る必要がある。それが仕事に就く機会の欠如であれ……」
過激派対策を巡る会合で演説するオバマ大統領(19日、ワシントン)=AP
数時間後には右派メディアのフォックス・ニュースが、ウサマ・ビンラディンを撃ったと主張する米海軍特殊部隊ネイビーシールズの元隊員、ロブ・オニール氏を番組に招いた。同氏は「彼らを殺すこと」こそが、まさに米国が「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」のジハード主義者らを倒す方法だと説明、「彼らを止めるものは、キャリアパスの変化ではないと思う」と語った。フォックス・ニュースの番組のほかの部分は、それほど礼儀正しくなかった(編集部注:フォックスのウェブサイトでは、微妙で遠回しな発言だったと弁明したハーフ氏をやゆした)。
■変わらない「根本原因」への考え
よくあることだが、政治的な点数稼ぎはより大きな超党派の問題をぼかしてしまう。オバマ政権はこの週、過激主義について議論するために60カ国の閣僚と3日間のサミットを開催した。ハーフ氏が事前に説明していたのが、この国際会議だ。サミットで特筆すべきは、「9.11」のテロ攻撃から10年以上たった今、米政府がまだテロの「根本原因」について同じ対話を行っていることだ。
アフガニスタンとイラクの戦争、そして「対テロ戦争」を13年間戦ってきた末に、米国は振り出しに戻り、人が急進的になる理由を説明するのに腐心している。
ジョージ・W・ブッシュ大統領にとっては、問題の原因は中東の抑圧と民主主義の欠如にあった。「米国民は『なぜ我々を憎むのか』と問うている」。ブッシュ氏は9.11の直後にこう語った。「彼らは我々の自由を憎んでいる。宗教の自由、言論の自由、投票し、集会を開き、互いに意見を異にする我々の自由を憎んでいる」
政治の停滞が少なくとも話の一部であることを疑う観測筋はほとんどいない。だが、ブッシュ氏はこの洞察を大きく推し進め、イラク侵攻を正当化する理由の一つとして利用した。もしバグダッドで力強い民主主義を確立できたら、この地域の有害な政治思想の源泉を枯渇させることができるという議論が進んだ。実際は、イラクはジハード主義者の安息の地になった。
オバマ政権は概して、異なる考えを抱いてきた。ハーフ氏は失業と過激主義に関して、上司であるジョン・ケリー国務長官の意見を繰り返していただけだった。長官は昨年、「多くの場合、貧困がテロリズムの根本原因だ」と語っている。