筆者はギリシャ危機の展開を観察しているうちに、同じくらい強力な正反対の考えに引き裂かれる感覚にとらわれた。一つは、通貨ユーロはもう存続し得ないということ。もう一つは、ユーロを救うためにあらゆる手を尽くさねばならないということだ。
ギリシャのチプラス首相。金融支援の延長について、ぎりぎりの日程のなかでEUと合意した(21日、アテネ)=ロイター
ギリシャとユーロ圏の債権者による先日の合意は良い展開だといえる。目前に迫っていた政治・経済危機の脅威が先送りされたからだ。しかし過去の経験を踏まえれば、ギリシャとの合意は、ウクライナでの停戦合意のそれを若干上回る程度でしかもたないかもしれない。どちらの合意においても、その根底には緊張と問題が存在する。これらは巧みに作成された文書で解決できるものではない。
■通貨ユーロが欠く政治的・経済的土台
欧州単一通貨のアイデアが最初に提示されたときからずっと、この構想は結局失敗に終わるだろうと筆者は考えていた。この見方は3つのシンプルな命題に基づいている。1)政治同盟という後ろ盾がなければ通貨同盟はいずれ存続できなくなる。2)欧州には政治同盟を下から支える共通の政治的アイデンティティーが存在しないため、政治同盟は実現しない。従って3)ユーロはいずれ破綻するだろう、というわけだ。
この数年間、何人もの人々が筆者の考え方を変えようとし、3つの命題はいずれも浅はかで間違っていると説いてきた。しかし筆者は、いろいろな出来事を観察するたびに、通貨ユーロにはその存続に必要な政治的・経済的な土台が欠けているとの見方に舞い戻ってしまうのだ。
ギリシャ危機はそうした出来事の好例だ。欧州統合に最も熱心な人々は、経済が脆弱なユーロ加盟国の問題を長期的に緩和するには正真正銘の財政移転同盟を立ち上げるしかないと主張している。ドイツのように裕福なところからギリシャのように貧しいところに税収が自動的に流れていく仕組みをつくるということだ。
この主張は確かに正しい。しかし、そんな仕組みは決してつくられないだろう。なぜならドイツもギリシャも、本物の政治同盟で運命をともにできるほどには相手を信頼しておらず、好意も持っていないからだ。
欧州北部の国々は、南部の国々に条件付きの融資を行うことには渋々同意する。しかし、一つの国の中で行われる類いの自動的な財政移転には同意しない。なぜなら、ギリシャやイタリアといった国々の政治風土はスウェーデンやドイツのそれとは著しく異なるのではないかと北部の国々は思っており、実際その通りだからだ。