【北京=大越匡洋】中国の第12期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の第3回会議が5日午前、北京の人民大会堂で開幕した。李克強首相は2015年の実質経済成長率の目標を14年より0.5ポイント下げ、「7%前後」とする方針を正式に表明した。無理に高い成長を追わず、経済改革を通じて安定成長への軟着陸をめざす。一方、15年の国防予算(中央政府分)は前年実績比10.1%増の8868億9800万元(約16兆8500億円)と、5年連続で2桁の伸びを維持した。
全人代に臨む習近平国家主席(手前)と李克強首相(5日午前、北京)=写真 柏原敬樹
今回の全人代の会期は15日までの11日間。李首相は所信表明演説に当たる政府活動報告で「改革の深化と構造調整がなければ、安定した健全な成長は達成しがたい」と述べ、経済の構造改革を重視する姿勢を強調した。
中国政府が成長目標を下げるのは3年ぶり。景気の減速で14年の実質成長率は7.4%と24年ぶりの低い伸びとなり、政府目標に届かなかった。
李首相は「7%前後」の目標について「必要性と可能性を考慮し、客観的な実情に即した」と説明した。「中国経済は『新常態(ニューノーマル)』に入った」と強調し、年2桁の伸びを続けるような高速成長が終わり、7%前後の中高速成長の時代に入ったとの認識を示した。
無理に高成長を追い求めると、環境破壊や地方政府の債務膨張、不動産投機などの問題が一段と深刻になる恐れがあるためだ。小刻みな政策対応で景気を安定させつつ、金融制度などの構造改革を進め、持続的な安定成長につなげたい考えだ。
景気の安定の目安として雇用の確保を重視する方針を表明し「都市部で年1千万人以上の新規就業」を目標に掲げた。足元で伸びが大きく鈍化し、デフレリスクを懸念する声もある物価については、上昇率の抑制目標を14年よりも0.5ポイント下げ、3%前後に設定した。
15年の主要な政策課題として(1)行政の簡素化と権限委譲(2)金融改革(3)国有企業改革――などを列挙した。金利の自由化や人民元の国際化を推進し「資本勘定における人民元の交換性を徐々に高める」と述べた。
「積極的な財政政策と穏健な金融政策」という基本政策は堅持する。通貨供給量(マネーサプライ)の伸びは14年より1ポイント低い12%以内とする。金融政策のほか、鉄道などインフラ整備を通じて景気を下支えする構えで、財政赤字は14年予算比2700億元増の1兆6200億元とする。
中国から欧州やアフリカまでを結ぶ海と陸のシルクロード経済圏(一帯一路)の構想を推進する方針も強調した。習近平指導部が進める反腐敗運動については「権力の乱用の余地を断固なくし、腐敗の土壌を全力で取り除く」と訴えた。
▼全人代 全国人民代表大会の略称で、国会に相当する。地方の代表らが参加し、その年の政府の政治・経済の運営方針を示す政府活動報告や予算案の審議・承認を主な議題とする。開催は年に1度で、今年は15日に閉幕する。中国の憲法で国家の最高権力機関とされるが、実際には中国共産党の指導下にある。同時期に開く国政助言機関の全国政治協商会議(政協)と合わせて「両会」と呼ぶ。