【バンコク=小谷洋司】タイ軍事政権は1日、戒厳令に代わる新たな治安維持策を発動した。軍政に強い治安権限を与える暫定憲法44条に基づく「命令」で、軍は令状なしで身柄拘束や家宅捜索ができる。プラユット暫定首相に権力が集中し、実態は戒厳令と変わらないとの見方も出ている。
軍政は同日夜、戒厳令を約10カ月ぶりに解除した。プミポン国王が承認した。そのうえで、昨年5月の軍事クーデターを経て全権を握った国家平和秩序評議会(NCPO)の議長として、同職を兼務するプラユット暫定首相が命令を出した。
暫定憲法は、国の安全保障や秩序が脅かされると判断した場合、NCPO議長は「いかなる命令も出せる」と規定。同議長に暫定政権、議会、裁判所などを超える強大な権限を与えている。
今回の命令に基づき、軍は治安維持に反した市民を令状なしで最長で7日間拘留でき、住居や車両を捜索できる。5人以上が集まる政治集会は禁止する。軍は新聞の発行差し止めや報道機関の閉鎖も命じられる。
戒厳令の解除には国際社会や人権団体からの軍政批判をかわす狙いがあったとみられる。だが軍政が戒厳令の解除後も強権的な手法を続ける姿勢を示したことで、批判が強まる可能性もある。