ナイジェリアは大きく予想を裏切った。3月28日の大統領選について、政治家やアナリストは様々なケースを想定したが、その多くは崩れ去った。1999年以降政権を握ってきた与党、国民民主党(PDP)の有力者達は、投票が行われる前から暫定的な中央政府を立ち上げようともくろんでいた。PDPの中には、現職のジョナサン大統領の対抗馬で野党のブハリ元最高軍事評議会議長への敗北を認めるより、軍に政権を移譲しようという考えもあった。
選挙でブハリ氏が勝利したことを喜ぶ支持者ら(3月31日、ナイジェリア北部カノ)=ロイター
大統領選では、ナイジェリアの数百万人の国民が辛抱強く、おおむね平和的に投票の列をつくった。230万票という大差とはいえないものの、アフリカの中枢であり、分裂の危機にあるこの国の国民は、汚職の撲滅、より公平な富の分配、法や秩序の再建などを訴えた元軍政トップのブハリ氏を評価した。必然ではなかった結果だからこそ、いっそう注目に値する。
最終的な開票結果が発表される前に、ジョナサン氏が敗北を受け入れ、ナイジェリア国民の投票に対する不信感は瞬時に消え去った。ジョナサン氏は、おそらく多くの人命を救った謙虚さにおいて高い評価に値する。また、この選挙結果は、アフリカの多くの国々で民主化への道のりに険しさが残る中、大陸中の政治改革論者を活気づかせた。
■前例なかった現職大統領の敗北宣言
ナイジェリアの将来には多くのリスクが残されている。しかし、現職の大統領が投票で敗北して潔く敗退を受け入れたという、この国において前例のない出来事の重要性は過小評価することはできない。
ジョナサン氏は、より皮肉なPDP党員や同氏が政権にいたことで恩恵を受けていた故郷で産油地域ニジェール地方の出身者の一部からは、再選を果たせなかったことで批判されるかもしれない。しかし、より広い目で見れば、動き出した民主化路線から外させようとする圧力に抵抗し、理にかなったルールを敷いてその険しい道のりを滑らかにしようとしていたのは、5年の任期中の失敗を考慮しても称賛に値する。
選挙管理委員会も極めて重要な役割を果たした。当初は問題もあったが、新たな投票者識別技術は国民が不満に思う政治家を選挙で排除できないという皮肉が出るほどの選挙違反の抑制につながった。国内の体制は脆弱なままであるが、選挙管理委員会は安定に寄与する強さを得てきていることを見せつけた。
ブハリ氏の選出は、汚職や身内での排他的な資本流通、ナイジェリアの潜在力を弱体化させた犯罪行為などを国民が拒絶したことを示している。同氏の支持者の大部分は、過去15年間の不均衡な経済成長の時代に、その恩恵にあずかることがほとんどなかった抑圧された人々だった。こうした人々には、自身の選択で新たに政権についた人々に対するいっそうの一体感と信頼感が生まれるはずだ。
原油価格の下落とナイジェリア財政を考えると、国民の期待に応えるためには新政府には難しい課題が待ち受けている。しかし、民主化の追い風を受けるナイジェリアにとっては、原油依存を減らし、政治体制を食い物にする人々に立ち向かい、全国民が恩恵を受けるより広範な経済を育てるためのすばらしい機会である。
(2015年4月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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