背後に迫る煙から逃れようと、124人の乗客は励まし合いながら海底下の闇を進んだ。青函トンネルで3日発生した特急スーパー白鳥の発煙事故。避難の様子を乗客の証言から再現した。
「急ブレーキの感触に座席で目を覚ますと、すぐ脇を車掌が焦った様子で駆けていった」。4号車にいた青森市の女性会社員(28)はこう話す。
車内の時計は午後5時8分。ドライヤーが過熱したような臭いが立ちこめ、もやのような白煙が車内に漂った。
「最後尾の1号車へ避難してください」「荷物は置いて」。5号車にいたさいたま市のNPO法人理事長、石崎絹恵さん(72)は車掌の声を聞き、慌てて孫娘の久木野花音さん(12)の手を取った。
車内は薄暗い非常灯に切り替わった。車掌が車外への脱出を指示し、1号車のドアから順に暗いトンネルに降り立つ。乗員の配った懐中電灯やスマートフォンのライトで足元を照らしたりしながら、前の背中を見失わないよう皆が1列になって歩いた。
約30分後、約1キロ後方の旧竜飛海底駅にたどり着き、さらに進むと地上へ向かうケーブルカーがあった。定員は約15人で往復に20分はかかる。具合の悪い人、子供がいる家族、高齢者を優先した。
久木野さんは、ケーブルカーでしばらく昇ると、携帯電話の電波が届いたのか、周囲で一斉にメールなどの着信音が鳴り響いたと振り返る。その電子音に「やっと戻れた」と実感したという。〔共同〕