山手線の線路脇で架線の支柱が倒れた事故で、JR東日本は13日、管内で支柱が設置されている約5万カ所すべての緊急点検を始めた。同社は柱が傾いているのを1日半前に把握していたが、目視だけで「すぐには倒れない」と判断し、補修工事を後回しにしていた。同社は安全確認を進めるとともに、チェック体制に不備がなかったか詳しい経緯を調べる。
架線の支柱を点検する作業員ら(13日午前、JR品川駅構内)
品川駅近くでは午前11時ごろ、ヘルメットに作業着姿の社員3人が、線路脇の支柱が傾いていないか傾斜度を調べる測定器で調べ、支柱同士をつなぐワイヤにたわみがないかも確認していた。緊急点検は「優先度が高いものから進めていく」(広報部)としている。
JR東によると、点検するのは管内約5500キロの区間にある架線の支柱。目視を中心に支柱をチェックし、問題があれば改修する。
JR東によると、事故現場付近では3月25日から架線設備の改良工事を開始。4月10日夜にJR東と工事会社の社員が支柱が傾いているのを見つけたが、目視だけで「すぐには倒れない」と判断。作業員がすぐに確保できないこともあり、3日後の13日夜に傾きを抑える工事を行うことにした。
11日午後6時すぎにも、山手線の運転士が運行中に傾きに気づき、所属部署に報告。JR東は12日の山手線始発列車で安全確認をすることを決め、午前4時50分と午前5時すぎ、内回りと外回りの運転士が乗客を乗せながら目視で確認したが、特に問題があるとは判断しなかったという。
同社によると、地震などの自然災害以外で支柱が倒れたことは過去になかった。傾いていた場合に安全性を確認し、すぐに補修するかどうかを決める明確な基準はなく、「どの時点で対応すべきだったかなど、詳細に調査したい」(設備関係の担当者)という。
支柱が倒れた場合に自動的に検知する設備はなく、倒れた正確な時間は分かっていない。
京浜東北線の運転士が2本1組の支柱が倒れているのを発見したのは、12日午前6時10分ごろ。支柱の先端部分は山手線内回りのレールに接触しており、約1分前に電車が通過していた。約3分後にも電車が通る予定だった。電車がぶつかれば脱線事故になった恐れもあった。
倒れた支柱が現場に設置されたのは2001年。架線設備の更新のために近く撤去する予定で、架線をつり下げる「はり」に当たる金属製部品はすでに取り外されていた。
ワイヤでつながれた隣の別の支柱に向かってコンクリート製の土台ごと倒れており、「金属製部品を外したことで強度が弱まって、ワイヤの引く力に耐えられなかった可能性がある」(同)という。
事故では山手線と京浜東北線の一部区間で9時間以上にわたり運転を見合わせ、41万人に影響が出た。13日は始発から平常通り運転している。