年明けにパリで仏週刊紙シャルリエブドがテロリストの襲撃を受けて12人が亡くなったとき、同情し抗議する200万人以上の人々がフランスの街頭に繰り出し、デモを行った。これと同様の大衆による感情のほとばしりが、週末に地中海を渡ろうとして溺死した数百人の移住志望の難民に対して起こることは考えにくい。
エーゲ海で遭難した難民の救出に当たる人々(20日、ロードス島付近)=AP
しかしながら、惨事の規模の大きさや、その数の裏側にある人々の物語を目にし、欧州の政治家はこれまで無視したがってきた問題に対してようやく重い腰を上げるかもしれない。欧州連合(EU)の外相らは20日にブリュッセルでこの問題について協議し、イタリアによるEU首脳会議の緊急開催の要求を受け入れた。だが依然として、(対策を)実行に移すのは困難かもしれない。というのも、欧州が直面する3つの選択肢に魅力がなく、政治家はその問題を引き受けたがらないからだ。
■監視強化に及び腰
このような悲劇は許されず、防がなければならないというのが人間として自然な反応だ。よって、1つ目の選択肢は監視を強化し、より多くの移民を救助することだ。EUからの圧力を受け、イタリアは海難救助作戦の縮小を決断した。その結果、公海での死者数は増加している。今後、救助の規模を元に戻すよう圧力がかかることは明らかだが、今でさえ、EUがその決定を行うとは私には思えない。
カトリック教会やその他の場所で行われた人道問題に関する議論は、弱者を保護することは欧州の道徳上の義務であり、豊かな大陸であれば地中海を渡ろうとする人数ぐらいは容易に吸収できるというものだった。例えば、昨年はEUの総人口5億人に対し、難民21万9000人が地中海を渡ることに成功した。
これまでEU首脳は、監視強化が、進んで海を渡るリスクを冒す難民を増やすことにつながると危惧していた。また、不法か合法かを問わず、移民(の増加)により反移民のポピュリスト(大衆迎合)政党が欧州全域で力を増すことも分かっている。
だがこれは欧州に限った反応ではない。オーストラリアではアボット首相が海を渡って同国に侵入しようとする不法移民の「船を阻止する」と公約している。ここ1週間では南アフリカでもアフリカのあらゆる地域から来た数百万人の不法移民の一部が襲撃されて死亡し、厳しく非難されている。また、オバマ政権も含め米国の歴代政権はメキシコとの国境警備の強化を公約してきた。