乗客106人と運転士の計107人が死亡、562人が負傷した兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故は25日、2005年の発生から10年となった。電車が衝突したマンション周辺や市内の追悼慰霊式の会場では遺族や負傷者らが犠牲者の冥福を祈り、より安全な社会の実現へ願いをあらたにした。
尼崎脱線事故から10年。発生時刻に現場で黙とうする人たち(25日午前、兵庫県尼崎市)
JR西日本主催の「福知山線列車事故追悼慰霊式」には、遺族や負傷者ら約1100人が出席。事故発生時刻の午前9時18分、全員で黙とうした。事故現場でも同じころ、警笛を鳴らし走り去る電車に向け、多くの人が手を合わせた。
慰霊式で、JR西の真鍋精志社長は「鉄道の安全を信じて乗車いただいた皆様の尊い命を奪ってしまった。どれほど悔しい気持ちであられたか、痛恨胸に迫るものがある」と謝罪。政府代表として出席した北川イッセイ国土交通副大臣は「事故を決して風化させず、二度と繰り返さないよう、公共交通の安全対策に取り組む」と述べた。
脱線事故を教訓に、鉄道各社は、自動列車停止装置(ATS)や安全性が高い車両の導入など、安全運行に向けた設備投資を増やした。JRや私鉄など約220社の投資額は13年度に計8141億円となり、06年度(6666億円)と比べ22%増えている。
JR西の安全対策への支出は13年度は893億円と、事故発生の前年度(04年度)の2倍近くに。一方で、脱線事故の遠因にあったと指摘された、ミスを社員個人の責任とする空気が今も残るとする意見も聞かれる。事故後に入社した社員も全体の3割を超え、社内での風化をどう防ぐかの課題も浮上している。
事故を巡っては、業務上過失致死傷罪で在宅起訴されたJR西の山崎正夫元社長は無罪が確定。検察審査会の議決を経て同罪で強制起訴された同社の井手正敬元相談役ら歴代3社長について、二審・大阪高裁は3月、一審に続き無罪判決を言い渡した。検察官役の指定弁護士は今月6日、判決を不服として最高裁に上告した。