各地の寺社などに油のような液体がまかれた事件は、警察庁によると14府県43カ所(1日現在)に被害が広がった。4日で発覚から1カ月。各警察は文化財保護法違反容疑などで捜査を進め、不審な中年の男が浮上したが、絞り込みは難航している。大型連休に入り、寺社からは「未然防止は不可能」との声も上がる。
唐の高僧・鑑真が創建した世界遺産の唐招提寺(奈良市)。1200年以上守られてきた国宝の金堂などで4月11日、液体がまかれた跡が見つかった。
事件の特徴の一つは、著名な寺社が多く狙われたこと。東大寺(奈良市)や二条城(京都市)、清水寺(同)といった世界遺産では国宝や国重要文化財が被害に。四国や九州にも飛び火し、東北では山形県の5寺社で28日から4日連続して見つかった。
奈良県警のこれまでの調べでは、信貴山朝護孫子寺(平群町)の防犯カメラが、3月27日夕、フード付きの上着姿で一眼レフのカメラを持ち、液体をまくようなしぐさをする中年の男を記録。同じような服装の中年の男は、東大寺など奈良県内の4寺社のほか、約400キロ離れた成田山新勝寺など千葉県内の2寺社でも防犯カメラに。京都市の東寺でも服装は違うが似た男が写っていた。
だが捜査は思うように進まない。最多の19寺社が被害に遭った奈良県では、県警が8寺社で採取した液体が同種とみられ、うち4寺は動植物性の油脂成分を含むことも突き止めたが食品や洗剤など用途が広く、捜査関係者は「液体からの容疑者特定も難しい」と話す。
人出が大幅に増える連休中は「警備が追い付かない」と懸念する寺社も。唐招提寺は事件後、被害に遭った金堂(国宝)周辺を重点的に1日15人が巡回するが、これ以上は増やせないという。
奈良県の飛鳥寺、植島宝照住職(40)は「参拝客に、つい疑いの目を持ってしまうのがつらい。犯人は反省して出てきてほしい」と訴えた。〔共同〕