米GDPは一旦マイナス成長に転落する!?
それにしても、執筆時の市場では米景気の先行きを懸念するムードがやけに強い。前述のとおり、米1-3月期GDP(速報値)が事前の市場予想を大きく下回る低調な伸びにとどまったことは事実である。さらに5月5日に発表された3月の米貿易収支において、赤字額が514億ドルと事前の市場予想を上回り、08年以来の高水準に達したことも相当に嫌気されている。この貿易赤字拡大を受けて、先に発表された米1-3月期GDPの速報値が改定値で下方修正され、ともすると「マイナス成長に転落するのではないか」との懸念も強まっている。
ちなみに、米CNBCが貿易収支の発表後に集計した「ラピッド・アップデート」によれば、エコノミストらの予想平均はマイナス0.3%とされている。たしかに、ひとたびマイナス成長に陥ったとの事実が伝われば、瞬間的には市場がやや大げさに反応する可能性もあろう。ましてや、エコノミストらによる予想の平均をさらに下回る結果が明らかとなったような場合には、日米の株価やドルが一旦は大きく下押し、一時的にも市場はパニック症状を示すかもしれない。その点においては十分な警戒も必要となろう。なお、この米GDPの改定値は5月29日に発表される。
もちろん、5月末の発表を待つまでもなく、市場は米GDPの一時的なマイナス成長をじっくりと織り込んでいくはずである。その結果、フタを開けてみれば「予想通り」ということで、意外なほど無風に通過する可能性もないではない。そもそも、米東海岸を中心に襲った記録的な悪天候や米西海岸での港湾労働者によるストライキなど、複数の特殊要因が重なった1-3月期の米国経済が一定の落ち込みとなることは、ずっと以前からわかっていたことである。そして、このことを政府・当局は「あくまで一時的なもの」としている。また、3月の米貿易赤字が予想以上に拡大したのは、主に西海岸の港湾ストが収束に向かうなか、折からのドル高の影響もあって米国の輸入が急拡大したことが原因であることもわかっている(実は輸出も若干ながら増えてはいる)。
ただ、米国の株価にとっても「Sell in May」の警鐘が意味するところは決して小さくはない。なおも、NYダウ平均が1万8000ドル近辺にあることを考えれば、ヘッジファンドを含めた大半の投資家が含み益の乗ったポジションを抱いているはずであり、このあたりで一旦「実現益を出しておきたい」と考える向きが増えてもおかしくはない。いまだ初回利上げの実施にも漕ぎつけていない米景気は、なおも長い回復過程の途上にある。そこで一時的にも株価の調整局面が訪れるならば、そこはまさに押し目買いの好機と捉えたい。
田嶋 智太郎(たじま ともたろう)
1964年生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券勤務を経て転身。転身後は数年間、名古屋文化短期大学にて「経営学概論」「生活情報論」の講座を受け持つ。金融・経済全般から企業経営、資産運用まで幅広く分析・研究。新聞、雑誌、Webに多数連載を持つほか、講演会、セミナー、研修等の講師や、テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。主な著書に「財産見直しマニュアル」(ぱる出版)、「外貨でトクする本」(ダイヤモンド社)、「株に成功する技術と失敗する心理」(KKベストセラーズ)、「はじめてのFX『儲け』のコツ」(アルケミックス)、「日本経済沈没!今から資産を守る35の方法」(西東社)など。
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