全国有数の蜃気楼(しんきろう)の名所として知られる富山県魚津市が、発生メカニズムを解明するため、風の動きや速度を測る高性能レーダーを海岸沿いに設置した。神出鬼没の蜃気楼の予報精度を上げることで観光客を増やすのが狙い。謎にどこまで迫れるか注目が集まる。
富山湾で観測された蜃気楼(上、2012年5月27日撮影)と通常の風景=いずれも石沢啓一さん提供
魚津市の「魚津埋没林博物館」によると、富山湾で蜃気楼が見えるのは、春先から初夏の気温が高く風の穏やかな午後が多い。空気の暖かい層と冷たい層が重なる際、密度の差で光が屈折し、対岸の景色がゆがんで見える現象だが、層がどのように形成するのかなど、同湾での明確な発生条件は分かっていない。
そこで市が今年3月、予算約226万円をかけ、半径30キロの水粒子の動きを計測するレーダーを公民館屋上に設置した。ロケット打ち上げの際の気象観測にも使われている高性能で、水粒子の集まりである雲の流れから、蜃気楼発生前の風の動きを測定する。同博物館が近畿大などと共同で近く稼働させ、データを1年間集める予定だ。
蜃気楼目当てに魚津に来ても、見られずに帰る観光客も多く、同博物館の学芸員、石須秀知さん(48)は「従来のデータとも合わせ、発生予報の精度を向上させたい」と話す。一方、解明に複雑な心境のファンもいる。「魚津蜃気楼研究会」の石沢啓一会長(64)は「遠方からの人のために予報精度が上がるのは歓迎。でも、不思議でよく分からないからこそのロマンもあるんですよね」と笑う。〔共同〕