ちょいワルな伊達(だて)男御用達、キザなクルマの代名詞であるイタリア車。なかでも乗りこなすのに難易度の高そうな2座オープンのスパイダーを、マツダが手がけた。世界的ヒット車の現行ロードスターをベースに、広島の工場から出荷されるアバルト124スパイダー。その仕上がりは? 広島産イタリアンの乗り味を試した。
特集:飽くなき挑戦 ロータリーエンジンの半世紀
マツダの歴史とロータリーエンジンの名車たち
2013年に業務提携を発表した、マツダと伊フィアット。当初はロードスターを「アルファロメオ」ブランドで車体供給する計画だった。しかし、米クライスラーを完全子会社化したフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が、アルファロメオの高級ブランド化のために撤回。大衆車ブランド「フィアット」の名を冠するフィアット124スパイダーとして供給が始まった。ただ、ロードスターとの競合を避けるためか、国内向けに廉価なフィアット124スパイダーの投入はなく、高価格かつ高性能版である、アバルト124スパイダーのみが正規販売される。メーカー希望小売価格は388万円~399万円(税込み)。
■国産ならではの気安さ
試乗したのは、神奈川県大磯町で1月末にあった、日本自動車輸入組合(JAIA)主催のメディア向け輸入車試乗会。深紅のボディーカラーの6速オートマチック(AT)版だ。対面して最初に感じたのが、目ヂカラの強さ。ロードスターは前後ライトともに薄型で切れ長のしょうゆ顔だが、アバルト124スパイダーは存在感のある大きめなライトで、彫りの深い洋風な顔立ちに整形してある。ヘッドライトの先からフロントグリルまでの寸詰まりながら伸びやかなラインはクラシカルで、アルファスパイダーや日産フェアレディZといった往年のスポーツカーを想起させる。シンプルな造形で未来的なスポーツカー像を目指したロードスターに対して、グリルのハニカム構造のメッシュやボンネットのプレスラインといった意匠で、古典的なスポーツカーのテイストを盛り込む。
タイトな2座コックピットは、ロードスターそのもの。シルバークロムでふちどられたナビゲーションモニターや空調ダイヤルは、質感の良さで評価が高いマツダ車の上品なインテリアそのままだ。ステアリング中央にあるサソリをかたどったエンブレムや、目盛りが真っ赤に塗られた回転計、所々に配された赤いステッチといった血の気の多そうなあしらいが、スポーツカーらしさを際立たせる。
走り始めると、とっつきにくさは皆無。国産車ベースの右ハンドル仕様なので、ウィンカー位置もステアリングコラムの右側のまま。乗りたての輸入車にありがちな、右左折時にウィンカーと間違えてワイパーを動かすという恥ずかしいミスもしないで済む。不自然な日本語フォントとは無縁な、純国産ナビゲーションシステムも安心材料だ。
■手軽なオープンエア
ロードスターと大きく違うのはエンジン。フィアット製の1.4リッター直4ターボは、ロードスターに載る自然吸気のマツダ製ユニットを馬力・トルクともに大きく上回る。40馬力増の170馬力という最高出力は、ロードスターに比べて100キロほどの重量増を補って余りある。幌(ほろ)を全開にすると若干わざとらしく感じるぐらい大きく聞こえる吸排気音は、高回転になるほど快活にこだまする。ブレンボ製ブレーキに至っては、オーバースペックと思えるほど効きが良い。しかし、屋根無しゆえにどうしようもない剛性の不十分さは否めない。段差の乗り越え時などの突き上げ感がサスペンションで吸収しきれず、車台全体にじわりと波及する心地悪さはオープンカーの宿命か。ただ、肩の力を抜いて風を感じながら流すGTカーと解釈すれば、AT操作の気安さも相まって上出来と言える。このクルマのウリは何よりも、手軽に小粋なオープンエアを味わえること。簡素ながら頑丈そうな幌やシートヒーター、気の利いたナビなどの国産らしい長所を生かしつつ、快活なエンジンや陽気なエクステリアといった、イタリア車ならではの魅力も味わえる。
■日欧合作は当然の帰結?
振り返ればマツダは、GM傘下の豪ホールデン社から車体を仕入れて自前のロータリーエンジンを載せたロードぺーサーを国内販売したり、大衆車のファミリアやカペラなどを欧米風の顔立ちにして「フォード」ブランドでガイシャとして売ったりと、古くから日欧合作のクルマ作りに慣れ親しんだメーカーだった。さらに、往年の欧州車に着想を得た初代ロードスター(1989年)のヒットは、老舗欧州メーカーを刺激してオープン2シーターの相次ぐ復活を招き寄せた。そんな歴史をひもとけば、マツダ製イタリアンスポーツの誕生は、当然の帰結にも思えてくる。4代目となってマジメな優等生に進化したロードスターでは物足りない向きには、ほどよい刺激が加味されたアバルト124スパイダーは有力な選択肢になりそうだ。(北林慎也)