ルノー・日産自動車連合のカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)はこの最新のクルマについて、まるで奇跡だと言わんばかりの調子で説明してくれる。
「社内のプロダクトエンジニアにこれを開発するよう頼んだ。フランスと日本で頼んだ」。世界の主要な新興国市場を席巻するのにふさわしい超低価格のハッチバック車を作る戦いに挑み始めたころを振り返り、ゴーン氏はこう語る。「そうしたら、全員に無理だと言われた」
新車「KWID」を披露するゴーンCEO(5月20日、チェンナイ)=ロイター
この初期の懐疑論にもめげず、61歳になるゴーン氏は先月、インドの自動車生産都市チェンナイでの発表会でステージに上がり、新型車「クウィッド(KWID)」を披露した。欧州の自動車製造グループがインドで組み立てた新型車を投入するのはこれが初めて。しかも同社は、このクルマの設計チームやエンジニアリングチームもインドに置いていた。
クウィッドの外見はごく普通だ。いわゆるコンパクトカーで車輪が小さく、スタイリングは小型のSUV(スポーツ多目的車)に似ている。しかし、その値札には思わず見入ってしまう。そこに記された価格はわずか30万ルピー(4700ドル=60万円弱)。インドの格安小型車業界の有力企業各社、特に市場のリーダーであるマルチ・スズキと張り合える水準なのだ。
■「フルーガル」が根底に
ゴーン氏によれば、この低価格は「フルーガル(質素、倹約的)・エンジニアリング」に頼ることによって初めて可能になったという。
フルーガル・イノベーションの概念は決して新しいものではない。その理論によれば、新興国市場の顧客は付属品やおまけがたくさんついた製品を欲しがってはいるものの、先進工業国の同等品よりもはるかに安い価格で買いたいと思っている。ゴーン氏やゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルト氏のような企業経営者たちは、国際的な企業が直面している数々の課題への真剣な対応策として、質素を旨とする考え方を促進している。
フルーガル・イノベーションに一時の流行という側面があるとしても、経営者たちがこれで解決しようとしている問題は十分にリアルだ。欧米諸国の企業はインドなどの新興国で失敗を数多く重ねている。それなりの品質の製品を、消費者が期待している超低価格で量産することができずにいるからだ。
自動車メーカーはその顕著な例だ。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)や米国のゼネラル・モーターズ(GM)のような企業は、自動車を所有する人がほとんどいない市場の大きな可能性に引かれてインドに資金を投じてきた。しかし、どちらもうまくいっていない。高品質ではあるものの、現地の基準に照らせば価格がとにかく高すぎるクルマを投入してしまったのだ。