【北京=大越匡洋】中国が主導する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立協定の署名式が29日午前、北京の人民大会堂で開かれた。資本金1千億ドル(約12兆3千億円)のうち、中国の出資比率が約30%と最大となる。参加各国の国内手続きを経て、年末までに業務開始をめざす。日米が中心に運営してきたアジア開発銀行(ADB)など既存機関との協調が課題だ。
昨秋、アジアの21カ国が設立に合意したAIIBはその後、英国など欧州勢が相次いで参加を表明し、創設メンバーは57カ国まで膨らんだ。米国と日本は参加を見送っている。また参加を表明していたフィリピンは署名を見送る方針を示しており、動向が注目される。創設メンバーの代表らは同日、中国の習近平国家主席と面会する。
AIIBは本部を北京に置く。組織運営の中心となる理事会はアジアなど域内から9人、欧州を含む域外から3人の計12人で構成する。理事会は運営コストを削減するため、北京に常駐しない。任期5年の総裁は初代ポストを中国が握り、金立群・元財政次官が就く見通し。総裁ら執行部の権限が大きく、その分、中国の影響力が強まる。
各国の出資比率は全体の75%を域内メンバー、残る25%を域外メンバーに割り振ったうえで、原則として国内総生産(GDP)の規模に応じて分配する。中国が約30%で最大の出資国となり、8%台で2位のインド、6%台で3位となるロシアを大きく引き離す。
組織運営を決める各国の議決権は出資比率に基づいて算出し、中国が25%超を確保する。理事会の構成変更や増資、総裁の選出など、設立協定で最重要と位置づける案件は議決権の75%以上の賛成を必要とする。25%超の議決権を持つ中国が反対すれば可決できず、中国が事実上の拒否権を持つ仕組みとなる。
アジアのインフラ需要は2010~20年に8兆ドルに上ると試算されるが、既存の世界銀行やADBは必要な投資資金を賄い切れていない。中国の楼継偉財政相は25日公表した声明で、AIIBの運営開始により「アジアの長期的な経済成長を後押しできる」と訴えた。
米国が中心に築いてきた既存の国際金融秩序に中国が挑む形となるが、中国は「AIIBは既存の国際金融機関と競争するのではなく、互いに補完する関係だ」(楼財政相)と強調している。ADBなど既存機関と協力し「(融資審査などで)高い水準の運営方針を制定する」(同)という。
一方で「既存機関が歩んできた遠回りの道は避ける」(同)と主張し、支援を受ける側のアジア諸国のニーズに応じ、迅速な融資の実行をめざす考えを示している。