パナソニックは新エネルギーとして注目される水素を家庭で簡単につくれる技術を開発する。太陽光で水を分解して水素を得る仕組みで、パネル状の装置を屋根に敷き詰める。水素は燃料電池の燃料にして発電や給湯したり、燃料電池車に供給したりする。家庭で使う電気を全量賄える性能を視野に、「ポスト太陽電池」として2030年ごろの実用化を狙う。
自然エネルギーから直接水素を生成するパナソニックの光水素生成デバイス(3日午後、東京都江東区)
3日、同社が都内で開いた水素関連技術の研究開発説明会。「住宅の水素インフラの一端を担えるよう取り組んでいく」。技術担当の宮部義幸専務はこう強調した。
水を分解すれば水素と酸素になる。ただ一般的な電気分解の手法では電気代がかかる。水素は燃焼時に二酸化炭素(CO2)が出ないクリーンさが特徴だが、火力発電の電気で分解した場合には「環境負荷ゼロ」とは言えない。安さや環境への優しさをアピールするにはどうすればいいか。
そこでパナソニックが核に据えるのは光触媒技術だ。触媒に太陽光をあてると、水を水素と酸素に分解する反応を促す。
ただ従来の光触媒は、太陽光の中にわずかしか含まれていない紫外線の下でしか働かない。同社は「ニオブ系窒化物触媒」を独自に開発。太陽光の中で最もエネルギー量が多い可視光線に反応して水素を生み出せることまでは確認済みだ。
今年度からは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や京都大学と共同で、水素の生成効率を高める研究を進める。ニオブは資源量が豊富で、太陽電池の材料のシリコンに比べて供給不安や価格変動リスクは小さい。水素をつくり出す機構もシンプルで低コスト化が見込める。
「将来は屋根のパネルで(車を除いた)家庭で使うエネルギーを全て賄えるだけの水素を製造したい」。開発担当の羽藤一仁水素製造・貯蔵技術研究部長は意気込む。
現在の燃料電池には都市ガスなどから水素を取り出す装置がついているが、パナソニックは水素を直接使えるタイプの開発も並行して進める。これならガス代も節約できる。太陽電池の増産投資を決めるなど再生可能エネルギー利用や家庭の省エネ技術で先頭を走る同社は、政府が実現に向け旗を振る「水素社会」への対応も見据えている。
水素ビジネスと言えば、石油や天然ガスから水素を量産したり、水素を輸入して大規模発電したりする「川上」の研究開発に取り組む企業が多い。パナソニックが攻めるのは家庭という「川下」だ。ひとつひとつの規模は小さくても顧客層が厚い。住宅や家電事業と相乗効果も出しやすい。
もっとも燃料電池こそ普及しつつあるが、燃料電池車は市販されたばかりなど、水素活用は緒に就いたばかりだ。光触媒の水素生成効率や耐久性の向上、できた水素をどう安全に貯蔵するかなど、越えなければならないハードルは多い。
「水、水素、空気の3分野で30年に1兆円規模の事業を創出したい」。研究開発畑の津賀一宏社長は社内を鼓舞する。パナソニックはかつて青色発光ダイオード(LED)開発のアイデアがありながら、将来性を見抜ききれなかったことがある。水素技術への挑戦も長丁場になるのは間違いない。成長の種を育てるのにどれだけ辛抱できるかも試されそうだ。(平沢光彰)