世界経済に自動化の不安が垂れこめる。ロボットの一群がブルーカラーの仕事を奪い、巧みなアルゴリズムが難攻不落だったはずの熟練した専門職を打ちのめすことを工業国は恐れる。東アジアでは、工場から労働者が消えロボットの作動音が響きわたることへの懸念が広がる。しかしインドで懸念されるのは、むしろ企業がはじめから労働者を雇用しない可能性だ。
■労働集約型の工場誘致に注力
製造業の誘致を進めるインドのモディ首相
インドのモディ首相は経済面の優先事項をしばしば「仕事、仕事、仕事」と総括する。理由は簡単だ。若い労働人口増加はしばしば国力の増加と考えられるが、それは今後20年にわたり、年間1000万人以上の訓練不足の若者に職を与える必要があることを意味する。
このため、モディ氏は世界的な製造会社の誘致に全力を尽くしている。これは11月に予定される首相としての最初の訪英の際も力を入れる話題の一つだ。国内では、特に家電製品など労働集約型の産業を中心に新工場を開設するよう実業家に甘い言葉をかける。しかし、とりわけ近年ロボットへの投資が急増していることを考えると、職の創出が難航することを示す状況はそろっている。
中堅自動車部品メーカー、バロック・エンジニアリングの例を見てみよう。同社はフォードやジャガー・ランドローバー向けのプラスチック部品やランプを生産する。同社のタラン・ジェイン社長は、事業は急速に拡大していると語る。しかし、約3000人いる正社員の数を増やす代わりにロボットの数を大幅に増やす予定だ。「唯一の懸念は、自動化が十分な速さで進んでいないことだ」と同氏は言う。
これはジェイン氏に限ったことではない。フォードは今年10億ドルかけてインドに工場を開設し、GMは9月に同国の既存工場の拡充に10億ドルを投じると発表した。これらの工場は世界的に最新の設備となり、インドの「製造業が役立たず」という評判が誤りであることを示した。しかしこれは、工場の床に鮮やかな色のロボットアームを所狭しと置き、作業員の数を最低限に抑えることで達成される水準だ。
インドの製造業者はしばしば安価な熟練労働者を見つけるのが難しいと不満を漏らす。近年、賃金水準に対する要求が高まる一方で資本財のコストは低下している。労働規則が厳しく正社員の解雇は極めて難しい。