国産ジェット旅客機「MRJ」を開発中の三菱航空機(愛知県豊山町)は23日、26~30日の予定だった初飛行を11月9~13日に延期すると発表した。延期はこれが5度目。操舵(そうだ)部品を改修する。改修しなくても初飛行に問題はないが、安全性や完成度を優先する社内意見を重視したという。背水の陣で臨んだ初飛行を前に「詰め」の甘さがあらわになった。
初飛行の離着陸に使う愛知県営名古屋空港(豊山町)。「25日から11月1日まで展望デッキを閉鎖します」。延期発表前の22日に航空機ファンの殺到による混雑や事故を防ぐためこう呼び掛けたが、肩すかしを食った。
延期の理由はコックピット内の操舵ペダルの部品改修だ。ペダルを踏むと、垂直尾翼の後部に取り付けられた「ラダー」と呼ぶ舵(かじ)が動く。ラダーが左右に動き舵を切る。この可動範囲を広げるため、ペダルの機構を改修するという。
なぜ広げるのか。飛行中に悪天候になり、2基あるエンジンのうち1基が停止する状況に陥った場合、ラダーの可動範囲が広ければ機体の傾きを安定させやすくなる。
ただ、この改修は「初飛行のタイミングでは必要のない作業」(三菱航空機)。初飛行は晴天を狙って飛行や離着陸の基本性能を確認するもので、そもそも雨天では実施しないからだ。
このため初飛行後に改修する予定だったが、急きょ「前倒しで直した方が安全」との意見が浮上。関係者間の事前のコミュニケーション不足が、初飛行を心待ちにしていた航空会社などの期待をそぐ形になった。
4月に4度目の初飛行延期を発表した際、三菱航空機は「初飛行後の改修点を減らすため、完成度の高い機体にすることを優先した」と説明。親会社の三菱重工業が開発部隊のお目付け役として4月に送り込んだ森本浩通社長も「10月に飛ばす」と明言していた。目標必達に向けて関係者の足並みがそろっていなかったとのそしりは免れない。
MRJの初飛行は最初は2011年の予定だったが、設計や製造工程の見直しなどで延期を重ねてきた。今回の延期で初飛行は2週間程度の遅れになる。装置やシステムの不具合ではないため、17年春の型式証明取得、同年4~6月を予定しているANAホールディングスへの引き渡し時期に変更はないという。
今月26~30日には飛行許可を得るため、国土交通省の審査を受ける。その後、高速で陸上走行試験を実施。「いつでも初飛行できる状態まで持ってくる」(三菱航空機)
「予想外のことが起きてもおかしくない」。開発トップの岸信夫副社長はこう言ってはばからない。今回は軽微ですんだが、どこに落とし穴が潜むか分からないのが航空機の開発。新参者の三菱航空機ならなおさらだ。生みの苦しみは続く。
(上阪欣史)