【ベルリン=赤川省吾】ポーランドで25日に投開票された総選挙で保守強硬派の最大野党「法と正義」が勝利した。大型減税などを公約に掲げ、8年ぶりの政権交代を呼び込んだ。中・東欧のリーダー格であるポーランドでの構造改革の後退は欧州経済の新たなリスクとなる。新与党は難民の引き受けや欧州統合の深化にも慎重で、欧州連合(EU)の政策遂行に逆風となる。
演説するポーランド保守野党「法と正義」の副党首で首相候補のシドゥウォ氏(25日、ワルシャワ)=共同
地元メディアによると25日夜時点で「法と正義」の得票率は39.1%で単独過半数の勢い。保守穏健派の与党「市民プラットフォーム」は23.4%にとどまった。
「この国に変化をもたらしたい」。選挙後、「法と正義」のシドゥウォ氏は勝利宣言した。近く同氏を首相とする内閣が発足する見通し。
ポーランドは債務危機のあいだもプラス成長を維持したが、成長の恩恵が一部のエリートに偏っているとの受け止めが広がっていた。党内基盤が弱いコパチ現首相は有効策を打ち出せず、票が伸び悩んだ。
その一方で「法と正義」は政府への批判票の取り込みに注力。歳出削減など構造改革を断行した現政権との対決色を出すため、ばらまき策を公約に並べたのが成功した。
例えば年金制度を拡充し、最低賃金を引き上げる。付加価値税と法人税は減税する。さらに中銀も成長戦略に協力させる。金融緩和を嫌がる中銀幹部を更迭し、新政権寄りのメンバーに入れ替えるとの噂も流れる。
改革を逆回転させ、財政・金融を大盤振る舞いする危うい政策に見える。だが党内の若手のホープのマスタレレク議員は日本経済新聞に「若者に雇用の場を提供しないといけない」と強調する。
今回の選挙は内政が争点で難民政策が決定打になったわけではない。だが「法と正義」はキリスト教を重んじ、民族主義的な色彩が強い。新政権は中東のイスラム教徒を難民として受け入れるのに反対するとみられる。
外資系企業を狙い撃ちにした新税導入や国内産業保護を掲げているのもEUにとっては頭の痛い問題。欧州統合の深化にも慎重で通貨ユーロの導入準備も止まる。既に投資家が逃げ出し、ワルシャワの株価は急落した。
同党は以前、「EU懐疑派」とされたが、EUからの離脱は主張していない。今は反ロシア強硬派という立場を優先するため「EUの後ろ盾を必要としている」(トルン大学のウォイチェック・ペシンスキ講師)という事情もある。EUと対峙しつつ、決定的な対立は避けるとペシンスキ氏はみる。