日銀の黒田東彦総裁は6日午後、都内で開かれた内外情勢調査会の講演で、企業がデフレ脱却への確信を強めれば「デフレのもとでは報われなかった『前向きの行動』が全く違ったものにみえてくる」とし、「日本銀行はそのための役割を果たす」と強調した。企業収益は過去最高水準にあるが「設備投資や賃金の伸びがやや鈍いという印象は否めない」とし、その原因として「広い意味での『デフレマインド』が必ずしも払拭されていない」と指摘。「ポストデフレ時代の新たな経営戦略をしっかり立ててもらう」ことが必要だとの見方を示した。
黒田総裁は「賃金上昇率と物価上昇率はおおむねパラレルに動く」とし、「家計が実質的な賃金や所得を維持するためには基調的な物価上昇率が賃上げに反映されていくことが重要」と指摘。「賃金上昇率が十分に高まらない場合には消費者の物価上昇に対す抵抗感が強まり、物価上昇ペースが鈍くなるリスクがある」との認識を示した。そのうえで量的・質的金融緩和は「無理に物価だけを引き上げる政策ではなく、賃金の改善を伴うかたちで緩やかな物価上昇を実現しようとする」ものだと説明した。
2%の物価安定の目標達成に向けたリスク要因としては「最も重要と考えられるのは、中国をはじめとする新興国経済の減速の影響」との認識を示した。当局などの対応で「本年末から来年にかけては成長率は高まる方向にある」としつつも、「それがどの程度中国以外の東アジア経済を押し上げるかは不透明な部分が残る」と指摘。新興国経済の減速が深刻化した場合に「企業が設備投資の見送りや賃上げ幅の縮小などを行うようになれば、堅調な内需の先行きにも影響を及ぼす」との警戒感を示した。〔日経QUICKニュース(NQN)〕