鹿児島銀行は来年1月18日、鹿児島県内では25年ぶりとなる新たな有人店舗を鹿児島市内に設ける。10人の従業員は当初から意図的に女性だけとし、休日も営業。最初の2カ月あまりは平日の営業時間を延長するなど、実験的な要素を多数盛り込む。金融機関同士の競争が激しくなるなか、今後の店舗体制を考えるうえでの戦略拠点と位置付ける。
JR鹿児島中央駅から直線距離で4キロメートル弱の新興住宅地で「向陽支店」の開設準備が進んでいる。モダンな外観は一見すると銀行の支店には見えない。
半径1キロ圏内の人口は約2万人。40~50代の共働き世帯が多く住む。退職後をにらんで資産形成に取り組む世代だ。そうした個人顧客を取り込もうと、向陽支店では「おもてなし醸成店舗」というコンセプトを打ち出した。鹿児島銀では個人特化型の有人拠点は約30と全体の2割程度あるが、向陽支店は顧客の利便性を従来以上に意識して個人営業に取り組む。
特徴の一つが営業日・時間だ。土日祝日に窓口は午前9時から午後5時まで、平日も3月末まで試行的に午後7時半まで営業する。店頭に「コンシェルジュ」を配し、資産運用などの相談に訪れた個人顧客を速やかに案内。担当地域については顧客宅のペットの名前を覚えるくらい丁寧にフォローすることを求める。面談率は通常の支店の2倍以上を見込む。
「いち早く顧客ニーズをつかむことが今後のリテール戦略では非常に大切になる」と営業統括部の萩原大造主任調査役は説明する。
向陽支店は同行が当初から意図的に女性だけを配置する初の店舗だ。顧客が親しみやすく、きめ細かなフォローも期待できるためだという。人事戦略上は女性が活躍できる職場づくりを模索する意味合いもある。支店長含みで開設準備にあたっている上久木田民江氏の人事はその象徴だ。
営業経験が少なかったころ、上久木田氏がいた高見馬場支店(鹿児島市)に現在は頭取の上村基宏氏が2002年に支店長として赴任してきた。激励された上久木田氏は奮起。その後、「個人プラザかぎんWELL」の立ち上げに参加し、直近まで皇徳寺出張所(同)の所長を務めた。同出張所は1991年開業。現時点で県内最新の有人店舗だ。
上村頭取は言う。「10年も地道に努力を重ねれば、経歴に関係なく人は必ず力を蓄える」。向陽支店の開設を上久木田氏のような女性を増やすきっかけにしたい考えだ。
鹿児島銀は少子高齢化や人口減少などをにらんで10月に肥後銀行と経営統合。九州フィナンシャルグループ(FG)が発足した。地方創生を実現するため、九州FGは広域化した新たな地域密着型ビジネスモデルづくりを目指している。そうしたなか、ゆうちょ銀行、イオン銀行など流通系金融機関との競争にも対応する必要がある。
鹿児島銀は鹿児島県内にある約240の「ファミリーマート」に銀行店舗内と同じサービスを提供できるATMを設置しており、8月にインターネット専用支店も開いた。個人顧客の利便性を高める手は着実だが「お客様に寄り添える関係づくりは今後一層重要になる」(上久木田氏)。向陽支店が他店に拡大できる新たなノウハウをどう確立するかが注目される。
(鹿児島支局長 松尾哲司)