大みそかや正月といった一年の節目に、神の使いに仮装して家々を訪ね、厄払いや無病息災を願う全国各地の「来訪神行事」を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に一括登録する動きが出ている。地域の若者減少など課題を抱えるが、新たな担い手確保の試みも。伝承に向けた模索が続いている。
「悪い子いねがー」。2015年の大みそか、秋田県男鹿市の伝統行事「なまはげ」が集落を巡った。見学に来た同県能代市の米川慎弥君(5)は「お面が怖かった。びっくりした」と涙目。集落に住む谷口鉄美さん(67)は「若い人が減り苦労もあるが、地域の宝を何とか存続させたい」と力を込めた。
来訪神行事は国内各地で見られ、「甑島のトシドン」(鹿児島県)が09年に単独でユネスコ無形文化遺産に登録された。男鹿のなまはげは11年に登録審査に臨んだが「(トシドンと)類似の行事だ」との理由で認められなかった。
そこで国や地元自治体は、登録済みのトシドンに各地の来訪神行事を加える形でグループ化し、一括登録を狙う手法に切り替えた。男鹿市を中心に、国の重要無形民俗文化財に指定された来訪神行事を抱える9市町が14年に全国協議会を設立。16年にもユネスコへの提案を目指している。
各地の行事は今、若者の減少による担い手不足という共通の課題を抱える。男鹿市でも、なまはげになる独身男性が少なくなり、中止する町内会もある。14年度は市内148町内会のうち67町内会が、なまはげを実施しなかった。
担い手不足を解消しようと、これまで認めていなかった観光客や、地元の留学生の参加容認に踏み切った町内会も。市は12年度に、なまはげのような地域の行事を財政支援する交付金を新設した。こうした取り組みの効果で、行事をいったん中断した町内会が復活させる例が出てきたという。
男鹿市生涯学習課は「ユネスコの無形遺産として評価されることで住民に誇りが生まれ、来訪神行事の伝統を続けていくモチベーションになれば」と期待を込めている。〔共同〕