九州新幹線の脱線現場では、復旧に向けた作業が続いた=15日午後6時16分、熊本市西区田崎、金子淳撮影
熊本地震で回送中の九州新幹線が脱線した。新幹線の脱線事故は、1964年の東海道新幹線開業以来、4件目となる。事故が起きた現場の線路には、近年整備が進む「脱線防止ガード」がなかった。国の運輸安全委員会が15日、原因調査に乗り出した。
国土交通省やJR九州によると、脱線したのは「つばめ」として走る800系。14日午後9時25分ごろ、回送列車として熊本駅から南の熊本総合車両所に向けて出発し、約1分後に強い揺れに襲われた。当時、時速80キロで走行し、運転士が非常ブレーキをかけたが、6両全てが脱線した。
安全委の事故調査官3人は15日、現場を調査。事故調査官によると、6両にある全24車軸のうち、22軸が脱線。脱線の方向は左右ばらばらで、台車も損傷していた。レールなどの傷痕から走行中に脱線したとみられるという。
JR九州によると、九州新幹線では、レールのすぐ内側に金属製ガードを敷き、車輪をはさみ込む形で外れないようにする「脱線防止ガード」を設置する区間があるが、この現場は設置されていなかった。九州新幹線では上下線計514キロのうち、設置計画があるのは55キロで、48キロは設置済みだが、設置する場所は「非常に大きな揺れが予想され、活断層であることが確実なもの」を選んだという。
地震対策としては、脱線時にレールから大きく逸脱するのを防ぐ「逸脱防止ストッパー」もある。台車に設置したストッパーが脱線防止ガードなどに引っかかる仕組みだが、今回脱線した車両には装着されていなかった。JR九州は、800系を9編成保有しているが、装着済みは2編成だという。
新幹線は、各地に設置した地震計で地震の初期微動を検知し、送電を停止して非常ブレーキをかける「早期地震検知システム」も導入しているが、今回は自動停止は間に合わなかったという。国交省は「直下型地震のように震源地が近いと効果が出ない」という。
これまでの新幹線の脱線は、旧国鉄時代の1973年に大阪府内の東海道新幹線車両基地で起きた事故のほかは、地震が原因だ。
2004年の新潟県中越地震では、乗客ら154人を乗せ、時速200キロで走行中の上越新幹線「とき325号」が脱線。早期地震検知システムは作動したが、直下型地震で作動が間に合わず、そのまま約1・6キロ進んだ。車輪と床下機器がレールをはさみ込む格好になったため、転覆を免れた。
これを教訓に、JR各社は脱線防止ガードや逸脱防止ストッパーなどの対策を進めている。東日本大震災では、仙台駅付近を時速約70キロで試験走行中の列車1本が脱線したが、逸脱防止のストッパーにより線路から大きく外れることはなかった。
曽根悟・工学院大学特任教授(鉄道工学)は今回の脱線について「直下型地震による下からの強い衝撃で、列車が浮き上がったのだろう」とみる。「脱線時の被害を最小限にするため、異常時に早く停止できるようなブレーキの強化や、逸脱防止装置の設置が大切。脱線しても、ある程度スムーズに停止できるように車体の工夫についても議論すべきだ」と指摘する。(中田絢子、編集委員・細沢礼輝)