ミュージックホーンを搭載した名鉄7000系パノラマカー=2008年12月、豊明駅
字面を追うだけでメロディーが頭に浮かぶ――。テレビCMなどでなじみの「音」が商標として登録できるようになって1年。駅で聞いたあの音も、登録を目指している。
【withnews】名鉄、電車の警笛音を商標出願!特許庁「初めてのケースです…」
特集:テツの広場
♪ミドラ ミドラ ミドミラ~
名古屋鉄道(名古屋市)は今年1月、特急列車の接近を伝える警笛「ミュージックホーン」のメロディーを商標として特許庁に出願した。同庁によると、乗り物が発する音が出願されたのは初めてという。
ミュージックホーンは、1961年にデビューした日本初の前面展望車「7000系パノラマカー」から搭載。駅や踏切に近づく際などに鳴らされてきた。
「どけよ、どけよ そこどけ」などと聞こえるとして、沿線住民からは「どけよホーン」とも呼ばれる。鳴らすペダルは今も特急列車の運転席にあるが、騒音への苦情があってほとんど使われていない。
商標出願では、適用分野を「鉄道輸送」以外に「テレビゲーム機用プログラム」「キーホルダー」「かばん類」「おもちゃ」にも広げた。このメロディーを音源にした目覚まし時計の商品化もしており、名鉄の担当者は「活用方法は登録後に検討する」という。
一方、インターホン大手のアイホン(名古屋市)は、ラジオCMで流す「ピンポンはアイホン」を出願した。米国では「ピンポン」という呼び出し音自体が商標登録として認められたが、日本ではこの呼び出し音がすでに普及しているため、こちらの出願は見送ったという。
■音の商標登録、昨年度は29件
音の商標登録は、法改正で昨年4月から認められるようになった。登録されれば、他社が勝手にまねできなくなる。
特許庁によると、今年3月末までの1年間で出願は計414件あり、そのうち登録されたのは29件。文字ならば、半年以内に審査が終わるが、同庁商標課は「新しいタイプの商標なので慎重に審査している」と話す。出願は商品名にちなむものが多いが、電子マネーの決済時に鳴る「シャリーン」(楽天エディ)、緊急地震速報のブザー「ブィッ、ブィッ、ブィッ」(NTTドコモ)なども審査中という。
企業は新たな商標に何を期待するのか。大正製薬(東京都)は、「リポビタンD」のCMの決めぜりふ「ファイトー、イッパーツ」の登録が認められた。広報の担当者は「長年にわたって慣れ親しまれたもの。営業上のプラスになるというよりは、制度ができたので、とりあえず守ろうと……」。今後の展開は未定だという。
関西電気保安協会(大阪市)も「とりあえず」と、テレビCMでの紹介文句を登録した。電気設備の保守点検などをする一般財団法人。担当者は「モノを売る会社ではないので、ブランドのイメージ向上につながればいい。耳にした人が節電を考えるきっかけになればありがたい」と期待する。(志村英司)
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《弁理士で「社長、その商品名、危なすぎます!」の著者、富沢正さん(36)の話》 商標とは、他の人が使えない「土地」のようなもの。社名を言わなくてもメロディーだけで、その会社を連想させる音を独占できれば、波及力は大きい。ブランド構築の道具になるだろう。