オバマ米大統領が、5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の際に広島を訪問することを本格検討するなか、米国のメディアや専門家の間でも議論が起きている。複数の米有力紙が広島を訪れる意義を強調し、訪問を支持する社説を掲載する一方で、オバマ氏の訪問が謝罪と受け取られると懸念する意見も出ている。
特集:核といのちを考える
ワシントン・ポスト紙は16日付紙面で「広島の教訓と遺産」と題する社説を掲載。「オバマ大統領は謝罪のためではなく、核の平和に向けて努力するために都市(広島)を訪問すべきだ」とした。
社説では、広島と長崎への原爆投下を「無慈悲な高熱の爆風と放射能を解き放った、戦争の歴史で最も恐ろしい出来事の一つ」と表現。「現実に核兵器がすぐに消滅することはない」としつつ、オバマ氏が2009年に「核なき世界」を訴えたプラハ演説に触れ、オバマ氏が広島を訪れて核軍縮の道筋を示す意義を強調した。
ニューヨーク・タイムズも13日の紙面で「広島から核なき世界へ」と題する社説を掲載。「ケリー氏が地ならしをした以上、オバマ氏が初めて広島を訪問する大統領になることを妨げるものはないはずだ」とし、「核兵器のない世界」の実現に向けた新提案を用意して臨むよう促した。
また、オンライン雑誌「戦略文化財団」は16日、元中央情報局(CIA)情報分析官のポール・ピラー上級研究員の論文を掲載。ピラー氏は原爆の犠牲者の大半が軍人ではなく一般市民だったことや、戦後日本が専守防衛に努めてきたことを挙げ、「オバマ氏は広島に行くべきだ」と主張した。
■米国民の間では注目集めず
米国の主要な新聞では、オバマ氏の広島訪問に反対する論調はいまのところない。オバマ政権が懸念していた米大統領選への影響も、トランプ氏ら共和党候補者は現段階では、この問題に焦点をあてた発言はしていない。広島訪問が検討段階ということもあり、米国民の間でも大きな注目は集めていないのが現状だ。
ただ、一部の保守系雑誌などは、ケリー米国務長官による先週の広島訪問がオバマ大統領訪問の布石になっているとの警戒感をあらわにしている。
政治雑誌「ナショナル・ジャーナル」は15日、「オバマ政権は広島について謝罪すべきではない」との論文を掲載。ケリー長官が広島を訪問し、平和記念資料館(原爆資料館)を参観したことなどが、「謝罪」を示唆していると批判。原爆投下が戦争終結を早めたと主張し、「日本は20世紀で最も残忍な政権の一つだった」などとした。
また、保守系のオンライン雑誌「アメリカン・シンカー」も15日、ケリー氏の広島訪問を「日本が真珠湾で我々に攻撃を仕掛け、悲劇をもたらした事実を無視するものだ」と批判し、原爆投下への謝罪は不要だとする論評記事を掲載した。(ワシントン=佐藤武嗣)