1928年9月ごろの志賀直哉。奈良市に住み「暗夜行路」を発表中(1921~37年)だった
■文豪の朗読
《志賀直哉が読む「暗夜行路」 いとうせいこうが聴く》
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今回聞けるのは後編第四部十九章、作品で最も有名なラストの盛り上がり、主人公時任謙作が自然との合一を感じる場面である。
小説の神様・志賀直哉はとにかくぶっきらぼうで、鼻に抜ける発音を多用している。フランス語みたいな感じの日本語だ。
本作『暗夜行路』には幾つか、主人公が芸能を観(み)るという場面がある。数年前に再読した時には、謙作の自意識の悩みよりそちらに興味がわいたものだ。
例えば『盛綱陣屋』を芝居小屋で観る場面で、謙作は役者が「寧(むし)ろよく踊っていた」と言い、「少しも内面的な所がなく」と評しながらそれが気楽だと感じる。伊勢参りの途中でも謙作は遊女屋町の座敷に行く。そこで「太棹(ふとざお)とも細棹ともつかぬ三味線」を聞き、「至極単調な踊りを、至極虚心に踊る」のを観て面白がる。