「hitoe」開発チームの中島寛さん(左)と塚田信吾さん(右)。中央奥は久野誠史さん=神奈川県厚木市、杉本康弘撮影
NTTが様々な企業とコラボする経営戦略に大きくかじを切っています。通信網を提供するだけの「プロバイダー」から、コラボ企業と一緒に新しい価値を創造し、最終ユーザーに提供する企業グループへの進化を目指しているのです。
■着る端末、コラボから光
心筋梗塞(こうそく)で倒れ、病院に運び込まれた働き盛りの患者を救えなかった――。二十数年前の研修医時代。夜勤での苦い経験が心の隅でずっとうずいていた。
NTT物性科学基礎研究所(物性研・神奈川県厚木市)で上席特別研究員として働く医師の塚田信吾さん。医学部卒業後、国内外の大学で研究医として働いてきたが2010年、NTTに転じた。
脳神経の研究のためだった。マウスの脳の動きをつかむ「電極」をまずつくろうとした。金属製の電極は脳を傷める。生体に優しく、長時間、脳に伝わる信号を感知できる電極がほしかった。たどり着いたのが電気を通す高分子素材を絹糸にしみこませた電極だ。
その電極に社会的ニーズがあることを知らせてくれたのが、11年の東日本大震災。被災地で働く知人の医者から、被災者の血圧や心拍数が高くなり、病院に運び込まれる人が多いと聞いた時だ。開発した繊維状の電極で心電や心拍数などを測ることを思いついた。
「日ごろから血圧や心臓の状況を細かく把握できれば病気を防げる」。研修医時代、亡くなった患者も救えたかもしれない。新たな研究目標をたぐり寄せた。
シャツに電極を付ければ、ウェアラブル端末になる。この研究に、物性研で化学専門の中島寛・主幹研究員も加わった。塚田さんと中島さんは「この電極で世の中は変わる」と言い続け、シャツを何度も洗っても劣化しない電極が完成したのは13年2月だった。
NTT社外取締役の榊原定征・東レ会長(当時)が研究所を訪れ、この電極を見たのはそのころ。「一緒にやりたいですね」。東レと共同研究が始まった。
14年1月には、東レの極細繊…