経済同友会の「憲法問題調査会」が03年に出した意見書がある。
「『自由』『権利』の名の下に、『公』の概念を否定的にとらえる風潮への懸念がある」。人権を制限できる条件として現行憲法が掲げる「公共の福祉」の概念を明確にするため、「どのような条件で権利が制限されうるのか明記する」と提案している。
自民党憲法改正草案も「公共の福祉」は意味が曖昧(あいまい)だとして、「公益及び公の秩序」に置き換えている。
経済界にとって、人権と折り合いをつける「公」とは何だったのだろう。
同友会の調査会委員長を務めた高坂節三・元伊藤忠商事常務(79)によると、70年代の石油危機で原油価格が高騰した教訓から、輸入に頼るエネルギー源を多様化する必要性が叫ばれていた。最も期待されたのが、原子力だった。
だが、原発立地への地元住民からの風当たりは厳しく、「どこの電力会社も地元対策で大変だった」と高坂氏は振り返る。「原発をつくろうとすると激しい反対運動が起きた。原発のエネルギーは日本の国を守るために必要だった。エネルギー政策は、いわば『公』でしょう」