木村蒹葭堂(きむらけんかどう)「花蝶之図」(関西大学図書館蔵)
伊藤若冲(じゃくちゅう)ら、江戸時代に花開いた京都や江戸の絵画のブームが続く。大坂(現在の大阪)にも多くの絵師がいたが、今やほとんど忘れられた存在だ。海外に渡ったり、安い値で売られたりしている。
「こういうものがあるから、調べてみては」
1999年、ロンドン・大英博物館。研究で訪れていた中谷伸生・関西大教授(近世近代絵画史)は館側から一つの所蔵品リストを手渡され、息をのんだ。日本でほとんど見る機会のない、江戸時代に活躍した大坂の絵師の作品名が並んでいたからだ。
同博物館が所蔵する近世大坂の作品数は約550点。アジア部日本セクションの矢野明子・学芸員によると、19~20世紀前半に英国の医師や小説家から寄贈されたものが多いが、2000年以降も吉村周山の屛風(びょうぶ)や森狙仙(そせん)の「猿図」などが加わったという。
江戸時代、京都なら、琳派(りんぱ)の尾形光琳や、若冲、曾我蕭白(しょうはく)らの奇想の画家がいた。江戸には、葛飾北斎や喜多川歌麿らの浮世絵もあった。これに対し、江戸中期(18世紀)以降の大坂にも、木村蒹葭堂(けんかどう)や狙仙をはじめ、文人画や写生派、風俗画など多彩なジャンルの絵師がいた。中谷教授によれば、主立った人物で160人程度。「大坂画壇」と呼ばれるが、多くは忘れられた存在になっている。