朝日新聞デジタルのアンケート
指導する側からも、指導を受ける側からも、朝日新聞デジタルのアンケートに多くの不満の声が届いています。では、どんな指導体制が望ましいのでしょうか。今回は、外部指導者についての声を中心に紹介します。一方、部活動に詳しい専門家は、指導体制や活動時間について、少し考え方を変えるべきでは、と提言しています。
アンケート「やりすぎ?足りない?部活動」
■部活の意義や役割を共有しよう 西島央・首都大学東京准教授
昨年秋、鹿児島県の中学生約2千人に部活動の活動時間や満足度などを調査したところ、7割の生徒が満足しているという結果でした。活動時間を「もっと長くしてほしい」という意見も、「もっと短くしてほしい」も、1割ずつありました。
朝日新聞のアンケートには「活動時間が長すぎる」という声が大勢のようですが、その多くは「意義は認めるが何とかしてほしい」という意見なのではないでしょうか。
部活動の役割や意義を認めた上で長すぎる活動時間や教員・生徒の負担の問題に対処するにはいくつかの方法が考えられます。学校外との協力は一つですが、協力の方法を大胆に変えてみてはどうでしょう。
現在でも多くの学校に外部指導者が入っています。ですが、学校教育に関わる資格が明確でなく、勉強より部活動を優先させるような指導がしばしば起きます。また、技術指導のできる教員がいるかどうかで要不要が変わってしまい、外部指導者の立場は不安定です。
文部科学相の諮問機関、中央教育審議会は昨年末、教員以外で休日に児童や生徒の引率ができる「部活動指導員(仮称)」の制度化を答申しました。全国の部活動の数、雇わなければならない人数を考えれば、早期の実現性は低いでしょう。
いままでの部活動のあり方のままで導入するのではなく、指導にあたる方々には、しかるべき研修や資格できちんと部活動の意義を共有してもらう必要があるでしょう。施設・設備や生徒の参加の利便性などを考慮して、担い手は地域社会や社会教育関係団体または民間企業が、場所は学校が受け持つしくみが良いのではないかと思われます。
それに向けて、まずは、学校と社会をつなぐような仕事をする人を各校最低1人配置することから始めるのがよいと考えます。教員は部活動のとりまとめの仕事から解放され、いま想定されている「部活動指導員」ほど人材やお金のコストがかからず、早い時期に導入することができるのではないでしょうか。
教員や生徒の負担軽減には別の方法もあります。たとえば、1週間のうち月水金は野球、火木は演劇といったように、一つの部の活動日数を減らして、複数の部への加入を認めることです。もちろん、一つも入らないという選択肢も認めたほうが良いでしょう。そうすれば少子化が進む中、各部の部員数は増え、指導する教員の負担軽減にもつながり、1週間ずっとは活動したくない生徒にも選択の幅が生まれます。
部活動には、単に好きなスポーツや芸術活動がうまくなるだけでなく、放課後や週末の居場所、友達や地域社会とのつながりづくり、進路選択、文化面での格差是正などで役割や意義があります。
しかし、現行の学習指導要領は、部活動の役割や意義を十分には示していません。今後も学校教育活動の一環として位置づけるのであれば、役割や意義をしっかり定義して、教員の体制や職務内容、そして教員養成のあり方を検討する必要があります。(聞き手・高橋玲央)
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にしじま・ひろし 68年生まれ。東京大学大学院助手・助教を経て現職。専攻は教育社会学、音楽教育学、文化政策学。
■外部との関係めぐる意見
アンケートには、部活動の指導に外部の力を、という意見が多く寄せられています。外部との関係をめぐる意見を紹介します。
●「教員の待遇を改善して、平日は教員が指導する。土日は、部活動ではなく、クラブチームとして扱い、外部指導者を呼ぶ。外部指導者が、見つからない場合は、教員に、別途に手当を決めてしはらう。部員も土日は、希望者のみにする」(岐阜県・50代男性・中学生の親)
●「小学生から高校生までは、放課後の時間、欧米のように地域のクラブに参加するのが良いと思う。その場合、すべての子どもが平等に活動できるよう費用は無料または安くおさえるべきである。そしてコーチや指導者は地域の大人が担うべきだと思う。そうすれば、仕事以外のやりがいにもなるし、地域交流にもなる。しかしその場合、日本の残業という働き方を見直さなければ実現は難しいとも思う」(東京都・10代女性・中学生の家族)
●「うちの子供は、スポーツはあまり好きではなく、かといって文化系の部は吹奏楽と美術だけと種類が少なく、また部活の拘束時間が長く、好きな読書や習い事や勉強の時間がとれそうもないので、帰宅部とすることにしました。生徒個人の都合を考慮して、すべての活動時間に全員の参加を強制することはすべきでないと思います。書道や理科や社会など文化系の部活は事故が起こるリスクは少ないので、大学生のボランティアを含めて外部の力を借りれば、もっと多様な部をつくることができると思います」(北海道・50代男性・中学生の親)
●「顧問を務める教員が部活内容の専門知識のない素人であることが往々にしてある。心得のある指導者を外部から招く、また生徒が学校外のサークル・同好会へ参加することを推し進めた方が良い。ちょうど、子育てや介護を家庭内で完結させるのが難しい時に、地域のサポートサービスを利用するイメージと似ている」(愛知県・40代男性・その他)
●「スポーツ部や文化部どちらも成長期の心と身体を研究されたプログラムを子供たちが受ける必要があると思っています。教師は普段の学習で心と身体の指導を行い、授業の準備をした方がよいと思う。学習の準備と部活の準備を同時に行うのは、無理がある。指導者と教師はお互いに余裕を持ち、適正な指導を行うことで子供たちも大人に対する信頼が生まれると思う」(沖縄県・30代女性・中学生の親)
●「外部委託、外部指導者派遣に賛成ですが、心配なのは、経済的にしんどい家庭の子どもです。外部委託の活動団体で、指導料や道具費などの費用の自己負担が生じる場合、それを払えない子どもは入りたくても入れず、とても可哀想です。国や自治体や企業などが働きかけて、地域の体育館や公民館などの施設で無料か安価な費用でも入会出来る活動団体を作るなど、全ての子どもに平等に居場所を作ることも必要になってくるように思います」(大阪府・40代女性・その他)
●「部活指導は大切な学校での規範意識を高める場所です。勝利至上主義の外部指導者は必要ない。あくまで学校の部活ととらえるならば指導は教員がするのが望ましい」(大阪府・30代男性・教員)
●「年配の外部コーチが来ていた。しかし、精神論で指導され、捻挫でアイシングしていても『冷やしたら治らん!』と言うので、先生は逆らえずアイシングをやめなさいと子供に指示。他にも理不尽な指導に驚いた。正しい専門知識を持った理学療法士、柔道整復師などが学校と契約して、けがを未然に防ぐ体制をとり、どの程度までならやっていいのかや、有効なテーピングの指導などの役割を担ってくれたらありがたいのにと感じていた。そのくらいの痛さはみんなあると言って我慢させ、成長過程の体を痛め、取り返しがつかなくなるようでは、学校教育の一環としての部活に意味は無い」(愛媛県・50代女性・その他)
●「中学校の部活の外部指導員をしています。教員の方々の負担を減らすために外部指導員を導入するのは賛成ですが、現場に入る外部指導員を厳しく評価するシステムは絶対に必要です。クラブを私物化しようとしたり、バランス感覚を著しく欠いた育成方法を試したりと生徒をモノのように扱う『監督ごっこ』に興じているだけの外部指導員を多く見てきました。それらの外部指導員は教育のプロではないので生徒の人間的成長や将来について本当に無関心なのです。外部指導員が教育に関しての意識を保って生徒と接しているかを判断するシステムは絶対に必要です」(大阪府・30代男性・その他)
●「学校と切り離すのであれば、クラブチームと変わらない。中学の部活は運動部、文化部どちらも技を磨くだけではなく、同じ中学の仲間が、同じ時間を共有し、一緒に活動することにも大きな学びがあると思う。学校の先生が部活の本来の目的を見失わないよう監督しつつ外部コーチや指導者を招聘(しょうへい)して勝利至上主義に傾かないようにしていく必要があるのではないか」(神奈川県・40代女性・中学生の親)
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