南阿蘇村久木野庁舎から出る臨時バスに乗る佐々木健太郎さん(前から2人目)。同じ学校の友達に会い笑顔になった=9日午前5時43分、熊本県南阿蘇村、遠藤真梨撮影
9日に多くの公立学校が授業を再開した熊本県。鉄道や国道が寸断された同県南阿蘇村などではこの日、通学が困難になった高校生らのために自治体が臨時バスの運行を始めた。再び通学できるようになった高校生は、新たな思いを胸に学校に向かった。
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午前4時40分。南阿蘇村の高校2年生、佐々木健太郎さん(16)は携帯電話のアラームで目を覚ました。朝ご飯を急いで食べ、5時20分に自宅を出発。雨のため自転車は使えず、父の車でバスが止まる村役場の久木野(くぎの)庁舎に向かった。
■地震以来の再会
「久しぶり」。地震以来会えずにいた友人の顔を見ると、笑みがもれた。5時45分発の45人乗りバスは22人を乗せ、大きく迂回(うかい)して1時間15分後に学校のある大津町のJR肥後大津駅に。バスの中では眠りこけていた。
「学校に行けるようになったのはうれしい」。駅から10分ほど歩き、通い慣れた県立大津高校の門をくぐっていった。
4月16日未明、自宅で本震に見舞われた。部屋の本棚が倒れ、電気も消えた。自宅は損壊を免れたが、余震が続く中で1週間あまり、家族と車中やテントに泊まった。同級生と情報を共有する通信アプリのLINE(ライン)には、安否を心配するメッセージがあふれた。「俺は大丈夫」と遠慮がちに返信した。
地震前、毎日のように利用していた南阿蘇鉄道とJR豊肥線は土砂崩れなどで不通に。村と高校方面を結ぶ阿蘇大橋も崩落した。学校は4月25日に再開したが、父親に送ってもらった初日以外は通えなかった。
佐々木さんのように熊本市や大津町方面に通うのが困難になった高校生や大学生らのために、南阿蘇村などは無料の臨時バスの運行を9日から始めた。村役場の長陽庁舎から肥後大津駅行きなど4路線だ。
■1時間も早起き
ただ、佐々木さんが利用できるのは午前5時台発の1本だけ。通学時間は約40分から約1時間半と2倍以上に延びた。早起きは苦手だが、起床時間は地震前より1時間以上早まった。「寝坊しないようにせんといけん。この便を逃すと学校に行けんくなる」
地震の前、勉強やクラブ活動に身が入っていなかった。高校受験に合格することばかり考え、入学後は目標を見失っていた。目指す進路もあいまいで、毎日を漫然と過ごしていた。
だが地震を経て、当たり前だと思っていた学校生活を送れるのが素直にうれしく思えるようになった。はやりのゲームやテレビ番組の話――。友達と会えない日々の中、何げない会話の大切さに気づいた。「友達っていいな、学校っていいなと改めて思った。いつものように、しょうもない話を笑いながらしたい」
最近になって、生まれ育った南阿蘇村の人たちの役に立ちたい、村役場で働きたい、と漠然と思うようになった。「目標をかなえるためにも、高校でまた勉強して、大学に進学したい」(米田優人、伊藤秀樹)