UNHCRの施設で、虹彩(こうさい)を読み取る装置を見つめる8歳のシリア難民のテスニームさん(左)。1年ごとに再登録を求められるという=4月20日、ヨルダン北部イルビド、矢木隆晴撮影
■2030 未来をつくろう
紛争が続くシリアから大量の難民を受け入れている隣国ヨルダンで、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が難民の目の虹彩(こうさい)の登録を進めている。難民キャンプではなく、街中に入り込んだ人々に生活費をどう確実に届けるか。この新技術に期待がかかる。
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トマトや鶏肉、ヨーグルトをかごに入れて会計に向かうと、シリア出身のディカさん(27)は財布も出さず、レジに備え付けられたカメラをまっすぐ見つめた。カシャッ。撮影音の後、数秒でレシートが出て会計はおしまい。「ちょっと並ぶけど、手ぶらで買い物ができて便利だよ」
アンマンから車で2時間ほどの砂漠にあるアズラック難民キャンプ。シリアから逃れた約4万人の難民が利用するキャンプ内のスーパーでは4月から、身分証明書(ID)代わりに虹彩を認証し、食品が買えるようになった。
キャンプの居住者が使えるのは、国連世界食糧計画(WFP)が毎月支給する1人20ディナール(約3千円)相当の食費だ。スーパーで撮影された画像はUNHCRのコンピューターに送られ、データベースに登録されたデータと照合。一致すれば、登録者に配分された食費から自動的に代金が引き落とされる。
WFPの担当者は「以前は銀行カードを紛失したり盗まれたりする難民も多かった。認証の仕組みにより、難民が自分で選んだ物を買うという日常が送れるようになった」と語る。
UNHCRは2013年から、ヨルダンなどで3歳以上のすべての難民の虹彩の登録を進めてきた。レバノン、イラク、エジプト、シリアを含めこれまで計約193万3千人分、約378万件が登録された。
■きっかけはシリア紛争
UNHCRが虹彩に注目したきっかけは11年に始まったシリア紛争だ。約380キロにわたって国境を接するヨルダンには、今年4月までに64万6千人のシリア難民が殺到。その8割以上は難民キャンプではなく、知人らを頼ってアンマンなどの街中で生活している。