地震で壁がはがれるなどの被害を受けた「漱石記念館」を片付ける工藤浚三さん=12日、熊本県阿蘇市、加藤諒撮影
夏目漱石没後100年の年、熊本地震でゆかりの温泉が窮地に立っている。漱石の滞在した部屋は壊れ、湯も止まった。まだ再建のめどは立っていない。
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「ごらんのありさまです」。熊本県阿蘇市にある内牧温泉の旅館「山王閣」。12日午後、3代目の工藤浚三さん(69)は深いため息をついた。
「床に落ちた漱石先生の肖像写真はすぐ直したんです。でも他は……」。敷地内にある夏目漱石記念館の中心として公開していた6畳ほどの和室は壁がはがれ、ガラス片も飛び散っていた。
1897年開湯の内牧温泉は、漱石の小説「二百十日」の舞台として知られる。主人公2人が阿蘇登山に挑戦する物語は漱石自身の体験を基に書かれた。
99年、阿蘇登山に来た漱石は山王閣(当時は養神館)に泊まった。部屋には今も文机やすずり、火鉢が保存され、全国からファンを集めてきた。初夏の今頃は客がひっきりなし、のはずだった。