外国人観光客らを案内する通訳案内士の坂野美奈子さん(中央)=皇居
外国人観光客を案内する「通訳案内士」の制度が揺れている。有償でのガイドは国家資格を持つ通訳案内士しか認められていないが、国の規制改革会議が「急増する観光客のニーズに対応できていない」と規制緩和を答申。通訳案内士団体は「質の高いガイドが確保できなくなる」と反発している。
「正月三が日で300万人が訪れ、スイミングプールのような賽銭(さいせん)箱にコインを投げ入れます」。はとバス(東京都大田区)の観光ツアーで明治神宮を訪れた25人の外国人観光客らに3月、英語の通訳案内士の坂野美奈子さん(42)は説明した。
ツアーは浅草や皇居を訪問。皇居では「天皇は英国女王と似た立場で、公務や慈善活動を行います」と案内した。米国から訪れたハン・シシンさん(38)は「どうして江戸城跡に天皇が住んでいるのか分かった。日本の歴史や建物にますます興味がわく。英語も上手」と満足げだ。
11年前に国の通訳案内士の試験に合格した坂野さんは、年間を通じて、はとバスツアーに乗務。日本の歴史・文化のほか、社会情勢や名所の知識も必要で、新聞・テレビのニュースや名所のパンフレットをこまめにチェックし、メモを欠かさない。「観光客にとっては私が日本人の代表になる。日本の印象を左右する仕事だと自覚している」と語る。
通訳案内士は、有償で外国人に観光案内をするための国家資格で、1949年に設けられた。英語、中国語、仏語など10の言語で全国に約2万人いる。日本では通訳案内士法で、外国人観光客への有償ガイドは、通訳案内士のみが行えるとされている。
これに対し、政府の規制改革会議が1月、通訳案内士について「急増するアジア圏の言語が特に足りない」などと指摘。今月19日に公表した首相への答申では「通訳案内士の業務独占を維持したままでは観光先進国を目指す上で量と質の両面で対応できない」とし、「通訳案内士」の名称は有資格者のみが使えることにした上で、無資格ガイドの解禁を求めた。