老犬向け歩行補助ハーネスが並んだトンボのブース=東京都江東区
学生服の生産量が日本一の岡山県。だが、少子化で中学・高校生は30年前とくらべて約4割減り、制服市場は細りつつある。ペット用品、看護服、英語教育……。曲がり角を迎えるメーカーが新たな道を探り、異分野に挑戦している。
東京ビッグサイト(東京都江東区)で4月初めに開催された国内最大級のペット用品見本市。約360社が出展した品々がずらりと並ぶ一角に、学生服メーカー「トンボ」(岡山市)のブースがあった。トンボが手がけるのは、足腰が弱った老犬向けの「歩行補助ハーネス(胴輪)」だ。
チェック、デニム、トリコロール……。種類は41。犬種に合わせて複数のサイズをそろえている。身体の大きさに応じて輪の大きさを調節でき、ブースに訪れた愛犬家が次々と試着させていく。「ひざの関節を脱臼してから足腰が弱ってしまったんです。いつまでもちゃんと歩いてほしい」。鈴木直春さん(50)と妻の早智子さん(48)=千葉県習志野市=は13歳のヨークシャーテリアにハーネスを試し、購入を決めた。
トンボは1876(明治9)年に創業し、1924(大正13)年に法人化。昭和の初めから学生服や体操服を手がける老舗だ。
戦後のベビーブームを背景に業績を拡大し、丸洗いできる制服の開発や有名デザイナーとの連携を進めるなど、業界を引っ張ってきた。だが、少子化の影響で学生服市場が縮小。新たな分野への進出を模索していた中、1千億円余りとされる学生服市場を大きく上回るペット市場に注目した。
市場調査を手がける「矢野経済研究所」(東京)によると、ペットの総市場規模は約1兆4千億円。最近のネコ人気でイヌの飼育数は減りつつあるが、一般社団法人ペットフード協会の調べでは国内では約990万頭に上る。昨年の1カ月あたりのペットに対する支出額も前年から約1割増えて7841円になり、平均寿命も15歳に近づく。
愛犬が長生きする商品へのニーズがあるはず――。2年前にペット用品事業への参入を決めたトンボはハーネス開発に取り組んだ。そこで役立ったのが、成長のスピードが異なる子どもの学生服づくりで培ったノウハウ。社員が自ら締め付け具合を試したり、動物病院からアドバイスをもらったりし、サイズ調整機能をつけた多彩な種類のハーネスを生み出した。
「ムサシママ」「リキ丸パパ」……。見本市のブースに置かれた試着撮影会申込表の飼い主欄には、愛犬をかわいがる人たちの気持ちがあふれていた。事業企画課長の渡辺崇さん(49)は「学生服を買う親と同じですね」と言い、力を込めた。「ものづくりの会社としての挑戦。社を挙げ、収益の柱の一つにしたい」
ハーネスは約1千の動物病院で取り扱い中。これまでに通信販売を含め、約4千点が売れたという。