いま開催中の第69回カンヌ国際映画祭で、クラシック部門に出品された溝口健二監督の代表作の一つ「雨月物語」が上映された。今回は、米国のマーティン・スコセッシ監督が主導して4Kデジタル修復したバージョンが上映された。
溝口監督は今年、没後60年を迎える。フランスでは特に人気の高い監督だ。カンヌのクラシック部門では昨年の「残菊物語」に続いて、2年連続で溝口作品が選ばれた。
「雨月物語」は1953年に製作された。戦国の世を舞台に、欲に目がくらんだ男たちが幸せな家庭を失っていく物語。京マチ子、森雅之、田中絹代らが出演しており、同年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞を獲得している。
今回の上映に先立ち、映画祭総代表のティエリー・フレモーさんと権利元のKADOKAWAの小寺剛雄さんらが登壇。スコセッシ監督がビデオメッセージで「溝口監督と、撮影監督を務めた宮川一夫氏は、繊細で、まれに見る、並外れた偉業を成し遂げました。2人の偉業の片鱗(へんりん)とその奥深さを感じ取ってもらえれば」と客席に語りかけた。
復元作品は音や映像が美しくよみがえり、画面の奥で食べ物を奪い合う人々までくっきりと見える仕上がりで、人間の欲望というテーマがさらに浮き彫りになっている。(編集委員・石飛徳樹)