「ピアノが弾けない編集者は、よいカメラマンとはいえない」、「『スラッシャー』でなければ、90後(1990年代)生まれだなんて恥ずかしくて言えない」。現在、複数の職業を兼務する「スラッシャー」が一種の「トレンド」のシンボルになっている。今年に入って新型コロナウイルス感染症が発生すると、こうした「スラッシャー」がますます増加した。
「スラッシャー」とは、一見ただ肩書が増えただけのようだが、実際には経済社会の変革と個人の観念の転換などさまざまな要素が生み出した化学反応だ。現代の若者達の前に広がる多肢選択問題であり、働く若者の大多数は何らかの答えを出さなければならない。
「スラッシャー」はどうやって生まれた?
「スラッシャー」は「スラッシュ」(「/」)から来ており、米国のコラムニストのマーシー・アルボアーが著作「ワンパーソン/マルチプルキャリア」の中で打ち出した概念であり、いくつもの職業や肩書をもつ人を指す。「スラッシュ」の概念は中国に入るとたちまち若者文化と融合し、若者層の一種の流行トレンド、生活態度となり、SNSを席巻した。
18歳から35歳までの若者1988人を対象に行った調査では、回答者の52.3%が、「自分の周囲に「スラッシャー」がいる」と答えた。清研智庫をはじめとするシンクタンクが発表した「2019年兼業若者金融ニーズ調査研究」によると、全国の若者層の中で主業務を持つ兼職者や起業者という「スラッシャー」はすでに8千万人を超え、80後(1980年代生まれ)から95前(1995年以前生まれ)の年代、高学歴の人が中心だという。
「スラッシャー」はなぜ急に増加した?
上海社会科学院青少年研究所の楊雄所長は、「『スラッシャー』は社会の開放、進歩、変革によって必然的にもたらされたものだ。現在の私たちの良好で開放的な社会環境により、若者の考え方はますます開放的になり、興味はますます広くなり、選択の可能性はますます大きくなった」との見方を示した。
「スラッシャー」は新興業態の急速発展の産物だという見方がある。経済発展と産業高度化にともない、メイクの達人、有料コンサルタント、デジタル化管理士などの新興の職業が勢いよく発展し、複数の職業をもつ人により大きな可能性を提供した。同時に、インターネット技術の進歩と運用は、生産の組織形態を大きく変え、労働現場のしばりから人々を解放した。個人が独立したサービス提供事業者になることが可能になり、「スラッシャー」が「育つ土壌」が整った。
目下、モバイルインターネットプラットフォームの高速発展が臨時的な仕事の分配効率を著しく高め、「アルバイト」の受け手と規模を拡大し、「バイト経済」を形成した。兼業の食品デリバリー、荷物配送から、兼業のデザイン、著作、翻訳・通訳、知識・技能の共有まで、「バイト経済」の中で多くの「スラッシャー」が登場した。「スラッシャー」は経済社会発展が付与した多様な選択肢であると同時に、翻って経済社会の発展を支え、大きな環境に若者の活力と気概を注入するものとなった。
若者世代の自己実現
「スラッシャー」は大きな環境の投影であり、個々人の選択でもある。調査によると、若者の半分以上が「『スラッシャー』になりたい」と答え、「『スラッシャー』になれば時間が効率的に使え、充実した生活ができるから」との見方を示した。ここからわかるのは、「スラッシャー」は現代の若者の一種の集団的価値観の方向性ということだ。
時代数拠の調査によると、「スラッシャー」にぜひなりたいと考えるのは、副収入がほしい、興味がある、自分への投資・自分を高めたいという3つの理由からだった。「スラッシャー」が若者にとって自分が発展していく上での価値判断であり、そこで強調されるのが多様化したバランス、個性とポテンシャルの模索、そして仕事、生活、趣味のよりよい融合の奨励であることがわかる。
現代社会の一部分である構造化した組織と安定した規範が打ち破られるようになるにつれ、柔軟な労働力市場と構造的失業が出現し、働く若者は仕事に安心感を見いだせなくなった。若者は自己実現しなければならない状況にも直面しており、ここには仕事からくる無力感、迷走する価値観、失われた自分のアイデンティティといった困難もあり、働く意味を改めて探さなければならない。
「スラッシャー」はこうした背景の中、若者が追い求める自己実現にほかならない。研究によると、「スラッシャー」ははめ込み、表出、自己肯定の3つのルートで自己実現を達成するという。まず新しい労働環境に自分をはめ込んで、リスクや社会と主業務がもたらす無力感を解消し、プラスのエネルギーを獲得する。次に自分の成長とキャリアの発展を融合させ、本当の自己価値の表出を獲得する。そして「スラッシャー」労働の中で達成感を得て、自分と社会の意義を新たに見いだして、自己肯定を獲得するのだ。
「スラッシャー」になるのは簡単か?
実は社会に認められる「スラッシャー」になるのは、それほど簡単なことではない。多様な肩書をもつことの背後には、よくよく考えなければならないたくさんの問題がある。さまざまな異なる役割の共存と転換は、それぞれにより多くの時間と精力を費やさなければならなくなる。「スラッシャー」は主業務と副業が共存する職業ルートを選んでおり、これは役割というジャングルの中でより強いコントロール力と生存力をもつことを暗に含んでいる。そうでなければ淘汰されてしまうからだ。
「スラッシャー」になるには、一連の条件がある。「多方向に分化するポテンシャルを備える者」という学術的概念で「スラッシャー」の生存スタイルを指し示すと打ち出す学者がいる。「多方向に分化するポテンシャルを備える者」は通常3つの能力を有する。枠を超えて統合する力、速い学習能力、強い適応力だ。彼らは興味が交差する中で新たなインスピレーションをつかまえ、生み出すことができると同時に、新しい技術を学習しマスターするペースが非常に速く、さらに周囲の状況の変化に対する適応力が高いため、さまざまな役割を自然に切り替えることができる。個々人の能力と特徴の違いが、「スラッシャー」の限定性と模倣の困難性を決定づける。「スラッシャー」が自身の肩書を統合し、さらに超越しようと思うなら、まだ長い道のりを歩む必要がある。(編集KS)
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「人民網日本語版」2020年7月2日