港では魚の種類を分けて、記録していく。中央の箱の中に入っているのは取れたばかりのワラサ=4月18日、熱海市網代の網代漁港
静岡県熱海市網代から出荷される「朝獲(ど)れ」の魚が東京・築地の「場外市場」で人気だ。築地で扱われる魚は輸送上の都合で前日か前々日に水揚げされた鮮魚がほとんど。ところが網代の「朝獲れ」は未明の網代沖で泳いでいたものばかり。築地で「唯一」とも言われる取れたての鮮魚が、低迷気味だった漁港に元気と自信を与えている。
特集:築地―時代の台所
4月19日午前2時、網代漁港。定置網漁を営む会社「網代漁業」所属の3隻の漁船が相次いで出港した。
以前なら午前4時ごろからの出港だった。だが、その日のうちに築地で売るためには、この時間から船を出さねば間に合わない。
午前2時15分に漁場に着いた後、約30分かけて本船が約100メートル離れた僚船に向けて定置網をゆっくり上げる「網締(あみじめ)め」を始めた。
明かりに照らされた網の上をカモメの群れが旋回する。3隻の船が飛び移れるほどに接近すると、網の中にはヘダイやイシダイ、ヒラメ、カマスといった大量の魚がはねていた。
漁師たちがたも網を使って魚をすくい、運搬役の船に入れる。午前3時半に運搬役の船が港に着くと水揚げ開始。20代から80代の約10人の従業員が魚を選別して目方を量り、かごに入れていく。時計を気にする目つきは真剣だ。
午前4時。トラック運転手の台野(だいの)秀浩さん(56)がトラックのエンジンをかけた。築地まで115キロの道のり。都心の渋滞を避け築地に早朝に着かないと「朝獲れ」の名折れとなる。
「伊豆・網代定置網 今朝4時に水揚げ、築地に直送しました!」
午前7時前、東京・築地場外市場の一角。網代定置網築地場外店の伊東栄一店長(45)が魚が入った店先のかごに札を立てた。「午前4時の水揚げ?」。客から驚きの声がかかる。
荷を下ろした台野さんが言う。「これが網代の新たな心意気なんです」