現場周辺を調査した米田さん。「秋以降の被害も心配」と話す=鹿角市
秋田県鹿角市十和田大湯で、クマに襲われたとみられるタケノコ採りの男性3人の死亡事故で、現場周辺を調査したNPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県)の米田(まいた)一彦理事長(68)は同一のクマによる仕業と推定し、さらに被害が広がる可能性を指摘している。
米田さんは元秋田県自然保護課の職員。秋田市の太平山周辺で小型発信器を使ったクマの追跡調査をした経験がある。1989年に広島県に研究所を設立、クマの生態や過去の事故の事例の研究を続けている。青森県十和田市出身で、事故現場周辺にも詳しい。
5月31日から1日にかけて調査した米田さんによると、3人が犠牲になった熊取平(たい)、田代平(たい)は山菜などえさが豊富なクマの生息地。「クマは単一の食物を一度に大量に食べる。今の時期は周辺のクマがタケノコを食べに集まってきている。一帯で成獣だけでも10頭以上はいるだろう」と話す。
注目したのは、5月21日の最初の犠牲者の遺体に食べられた形跡があったことだ。米田さんは、2件目の事故直後からホームページで、「3件目の死亡事故が発生する可能性が大きい」と、人をえさと認識した同一のクマによる事故再発を警告してきた。
3件目の事故の時は、遺体発見現場近くで捜索隊員がクマと思われる獣のうなり声を聞いている。米田さんによると、戦後に起きたツキノワグマによる死亡事故48件のうち10件で、クマが遺体のそばにいたことが確認されており、遺体に執着する習性があるという。
熊取平と田代平の事故現場の距離は2~3キロ。中間に県道が通っているが、一頭のクマが移動する範囲だという。昨年はクマのえさとなるドングリなどが空前の豊作で、栄養状態が良くなった成獣のメスグマのほとんどは出産しているとみる。ただ、今回の事故では子グマは目撃されていない。「交尾期の今ごろクマは興奮状態にあり危険。同一のオスの成獣による仕業だろう」と推定している。
研究で山に入る時は、クマ撃退スプレーを2本持参するという米田さんは「人が楽しみにしているタケノコ採りをやめろとはいえない。ただ、私は最も危険な今の時期の竹やぶには絶対入らない」と話す。「出産頭数が多い今年の秋、山の実が凶作になると危険が増す。えさ不足で里や観光地に出没するかもしれない」とも指摘する。(加賀谷直人)