ビョーク(ソニー・ミュージックレーベルズ提供)
音楽だけでなく映像やテクノロジーを駆使して、革新的な表現方法を追求するアーティスト、ビョーク。29日からは東京・日本科学未来館で、最新アルバム「ヴァルニキュラ」をテーマにしたバーチャルリアリティー作品の展示が始まる。来日したビョークに、新作や音楽とビジュアルイメージの可能性などについて聞いた。
――「ヴァルニキュラ」は長年のパートナー、マシュー・バーニーとの別れや家族の崩壊を描いた“ハートブレーク・アルバム”ですが、どのように生まれたのですか
常に曲を作っていますが、内容を頭で考えるのではなく、思いつくまま、感じたままに書いている。そのときはなかなか客観的に見られないけど、前のプロジェクトが終わって、さあ次へと考えたとき、書きためた曲を見返して、私はこういうことを書いていたんだ、と気づくことが多い。そこからだんだんと作品が見えてきます。
――実生活を時系列でたどる曲順になっています
物事が必然のような形で起きたという経緯もあったし、ミュージシャンとして、起きたことを隠すのではなく、そのままの時系列で記録することに興味がありました。
悲しみの中で感情が落ち込むけれど、そこから回復していく。そんな自分の経験した感情のカーブを、しっかり描きたかった。
――自分をさらけ出すことに、ためらいはありませんでしたか
もちろんありました。実際、どういうトーンで歌を伝えるか、着地点を見つけるのに時間がかかった。でも、最も普遍的で多くの人が共感するのは、最もパーソナルなものだと思う。
タイトルの「ヴァルニキュラ」は、傷を治すという意味の造語。アルバム作りは私にとって、癒やしの経験でもありました。
――宇宙や自然、テクノロジーがテーマだった前作の「バイオフィリア」から、ガラッと世界観が変わりました
「バイオフィリア」は、最新テクノロジーの要素が複雑に絡み合った作品。結果的に、17分の8拍子といった複雑なリズムも生まれました。「ヴァルニキュラ」はその反動か、出てきたメロディーは非常にシンプルなものでした。
――あえて二つの作品の共通点を上げるとすれば
私自身、年を重ねて、音楽への接し方が変わってきた。20、30代のときの作品は、焦燥感とか自分の感情を単純明快に表現するものだったけど、ここ2作はいくつもの層が重なって、映画のように複雑な構成の曲ができている。