①捕球後、グラブごと左腕に挟み込む(続きは写真2枚目以降に)
磨き上げた素早い動きは、対戦相手にも「そのこと」を悟らせないほどだ。
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今月中旬、南陽(愛知)の外野手村井渉君(2年)がチームメートとキャッチボールをしていた。雨上がりのグラウンドの片隅で、高い飛球を捕り、投げ返す。
利き腕の右手でボールを捕ると、すぐにグラブごと左腕に挟み込む。右手で球を取り出し投げ返す。その時間は1秒にも満たない。左手を使わないのは、生まれつき親指以外の指がないからだ。本人がグラブの「入れ替え」と呼ぶ、独特の返球方法は「自然に身についた」という。
小学4年から野球を始めた。両親からは「サッカーにすれば」と言われたが、キャッチボールが楽しく、他のスポーツは考えなかった。
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ただ、いくら返球が早くてもロスはある。左打者で、バットには左手を添えるだけ。使うのはほぼ右手1本で、力強い打球を打つのは難しい。中学まではレギュラーになれなかった。
それでも「自分には野球しかない」と迷わず野球部の門をたたいた。昨秋、部員不足のチーム事情も手伝い、レギュラーの座をつかんだ。初めて1桁の背番号「9」を着け、試合でヒットも打った。「うれしい。やってきてよかった」。両親も喜んでくれた。
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「なぜ野球なんかしているんだろう」。今年3月、野球で初めて悩んだ。きっかけはバント練習。冬を越え球威を増したチームメートのボールに右手だけでは押し負け、うまく転がらない。「ついていけない。やめたい」。泣きながら前野友飛主将(3年)らに打ち明けた。
前野君は言葉をかけた。「9番をもらっていることに誇りを持て。自信を持て」。冬の練習で自分に次ぐ回数の素振りをし、トレーニングでは常に食らいついてきた。障害を言い訳にしたことは一度もなかった。そんな姿に「見習わなければ」と尊敬の念すら持っていた。
前野君の言葉に、村井君は再び前を向いた。
4月に実力のある1年が入部し、村井君は定位置争いの真っ最中だ。「前野さんたち3年生3人のために」と、プレーで声で、チームを引っ張る。