朝の羊市場には、競売参加者らの威勢の良いかけ声が響いていた=クータマンドラ、郷富佐子撮影
オーストラリアの農業が「中国」で揺れている。生産現場では、中国の消費ブームが、長年続いた家畜の種類を変えるほどの影響力を持つ。一方で、中国企業による農地買収の動きが顕在化。総選挙が7月2日に迫るなか、与野党の政策に温度差がみられる。
シドニーから約380キロ。「羊の町」として知られるニューサウスウェールズ州のクータマンドラでは、隔週水曜に競売市場が開かれる。6月半ばの開場日、人口約5600人のこの町で、羊毛用5300頭、ラム肉用4900頭の羊が売買された。
この日は、羊毛用の最高級、メリノ種で1頭181豪ドル(約1万4千円)の最高値を付けた。だが、威勢の良いかけ声が響く場内で、豪州羊毛取引所の格付け担当フィオナ・ローリーさんは、ひとつかみの羊毛を手に、ため息をついた。「また黒くてごわごわした毛が混じっていた。豪州産の評判が落ちてしまう」
「ごわごわの毛」の持ち主は、ドーパーという肉用の品種だ。成長が早くラム肉に適し、毛が自然に抜け落ちるため毛刈りにも手間がかからない。だが、他の羊毛種が牧場や競売場などで接触すると、柔らかく繊細な羊毛に入り込んでしまう。羊毛生産世界一の豪州ではまだ少数派だが、ラム肉需要の拡大で、羊毛種から切り替える農家が増えているという。
約28平方キロの広大な農場で約8500頭の羊を飼う町内の羊農家の5代目、チャーリー・ブラッグさん(46)も6年前から、メリノ種からラム肉用の別品種に段階的に切り替えている。「難しい選択だったが、木綿や化繊に対抗する羊毛業界の将来が見えず不安だった。羊肉なら中国で中産階級が増え、火鍋ブームで需要が増えている」