下半身を鍛えるため、相撲部に交じってすり足をする磯上海大=福島県郡山市田村町徳定の日大東北
福島県郡山市の広大な敷地にある日大東北のグラウンド。夏の大会を目前に控えた6月下旬、乾いた金属音が響く。100人を超える部員たちの中で、エースの背番号「1」を背負うのは磯上海大(かいと)(2年)だ。
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2年前の夏、いわき市の中学3年だった磯上は進路に悩んでいた。甲子園のマウンドに立ちたい。それには「聖光か、県外かな」。そんなある日、テレビで福島大会の決勝を見た。日大東北が九回2死まで4点差で聖光学院をリードしていた。
だが、聖光学院が追いつき、延長十一回サヨナラ勝ち。8連覇を果たした。その時、思った。「聖光を倒してみたい。同じ甲子園でも、聖光を倒して行けば、倍うれしいに違いない」。日大東北に進学すると決めた瞬間だった。
1年後の福島大会決勝。磯上は背番号19でベンチ入りしていた。聖光学院の選手たちを目の前にした印象は「体が大きいなあ」。緊張感より、わくわくする気持ちが勝っていた。
「いつでもいける準備を」と中村猛安監督(37)から言われた。試合中はキャッチボールをしたり、上級生の飲み物を準備したり。だが、出番がないまま、1点差で敗北。涙を流す先輩たちのそばで、まだチャンスがある自分は泣いてはいけないと思った。
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投手として、聖光学院打線と初めて対決したのは昨秋の県大会だった。同点の九回途中から登板した磯上は十三回まで0点に抑えた。
だが、延長十四回裏、1死二塁のピンチを迎えた。決め球のスライダーを投げ込んだが「抑えてやる」と気負った分、ボールは高めに浮いた。サヨナラの二塁打を浴びた。
「努力が足りないな」
それから、ほぼ毎日10キロを走った。週末は神社の階段を駆け上がったり、片足跳びで登ったり、40回ほど繰り返した。
今年の春の県大会。3位決定戦で再び聖光学院と対戦することになった。試合前日、中村監督に「肩やひじは大丈夫か」と聞かれた。連投の疲れで少ししびれていたが「投げられます」と答えた。
準決勝で敗れた後、対戦が決まった聖光学院のエース鈴木拓人(3年)からかけられた言葉が心に残っていたからだ。「投げるの? お互い頑張ろうな」。自分が投げて勝ちたかった。
先発したが、球速はいつもより5キロほど遅かった。変化球にも切れがない。そんな磯上を見て、試合終盤、ベンチのメンバーから声があがった。「磯上は疲れている。3年生が頑張るぞ」。涙が出た。9回を投げきったが、今回も聖光学院の壁を破ることはできなかった。
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夏の大会が始まるまで、あと1週間余り。両校とも勝ち上がれば、準決勝で対戦することになる。
磯上をリードする捕手の細野颯(3年)は言う。「磯上は闘志をむき出しにするタイプではない。でも、聖光学院戦のときは気合が違う」
磯上は最近、投球の際に右腕を無理に高く上げるのをやめてみた。このほうが疲労が少ないからだ。「聖光を倒すのを目標にやってきた。その思いは自分が投げるようになってもっと強くなった。冷静に、制球を乱さず、この夏は絶対に勝つ」(敬称略)