左わきに抱えたグラブから素早くボールを抜き出す市毛祐匡君=群馬県安中市
右手にはめたグラブでボールを捕ると、グラブを外して右手で送球する。群馬県立松井田高校野球部の2年生、市毛祐匡(よしただ)君は、生まれつき不自由な左手を使わずにプレーするため、こんなスタイルにたどり着いた。9日、全国高校野球選手権群馬大会の開会式に臨み、初戦への思いを新たにした。
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「観客の多さに驚いた。初戦に向け、改めて気持ちが高ぶった」。開会式でグラウンドを行進した市毛君は、こう語った。初戦は9日の予定だったが、雨で10日に順延に。「安打を打てるように、なんとか当てて粘り強い打撃をしたい」と意気込む。
脳性まひのため左半身が不自由で、左手はじゃんけんの「チョキ」を作ることも難しい。小さい頃、左半身を動かす訓練を病院でしていた時、テレビで見た巨人の坂本勇人選手にあこがれた。「懸命なプレーに元気をもらった」
小学4年生の時、地元のソフトボールチームに入った。左手にグラブをはめたが、キャッチボールもできない。様々な方法を試したが、うまくいかなかった。「なんで自分だけ、と何度も思った」
中学の野球部で仲間から「捕ったら左わきにグラブを抱えたら?」とアドバイスされ、練習を始めた。手を抜きやすいようにグラブのひもは結ばず、はめたグラブをすぐに抜く動作を毎日繰り返した。
高校でも野球をしたい。中学3年の夏に部を引退した後は、野球塾に通った。まひのせいで腰を落としにくいため、左足が曲がるようにストレッチに時間をかけた。右腕だけで打てるように遠心力を利用するフォームも追求した。
今ではキャッチボールも素早い動作でこなす。守備は外野手。昨秋の大会では先発出場し、初安打を放った。松井田高の深沢大介監督(25)は「努力のたまもの」と話す。
練習量はだれにも負けないつもりだ。昨夏、やりすぎて右足を疲労骨折した。だが、ギプスをつけたまま練習を続けた。
「自分と同じような境遇の子はいっぱいいる。こんな自分でも野球ができるということを見せたい」(角詠之)