英ジャガー・ランドローバー日本法人がこのほど、ジャガー初となるSUV(スポーツ用多目的車)「F―PACE」の本格受注を始めた。「紳士の国の大人びたセダン」というイメージが強いジャガー。時流に乗ったSUVでも英国車らしさは健在なのか? 試乗車を駆って試した。
SUVは、ポルシェやレクサス、BMWなど日独の高級ブランドが積極展開する売れ筋モデル。優れた走破性と使い勝手の良さで、スポーツカーやセダンからの乗り換え需要が増えている。同じ英国ブランドのベントレーとともに今年、満を持して過熱する国内市場に打って出る。
ただ、インドのタタ・モーターズ傘下の兄弟ブランドには元祖SUVメーカーとも言える本格派四駆ブランドのランドローバーがすでにあるため、住み分けを意識してかF―PACEはジャガーらしさを強く主張するデザインになっている。文字どおりネコ科の肉食動物をイメージした低いプロポーションと細長くて鋭い目つきのヘッドライトで、軽快感と躍動感を強調する。
最初に乗ったのは、スーパーチャージャー付きの3リッターV6モデル「35t R―Sport」。8速ATと後輪駆動ベースの可変トルク配分四駆で最高出力340馬力を路面に伝える。車体の8割をアルミ製にしてスポーツカー譲りの軽量と高い剛性を実現する一方、定評のある英国車らしいなめらかな乗り味との両立を目指したようだが、やや中途半端な印象が残る。中心付近が軽いハンドリングは軽快感と扱いやすさを演出するが、それを求めるなら既存の中型セダン「XF」で事足りる。また、高速道路の追い越し車線を突っ走るような高速走行なら、ドイツ車のまるでレール上を走るような安定志向に割り切った操縦性にはかなわない。
ところが、次に乗った「20d Pure」で印象はガラリと変わった。ターボ付き2リッター直4ディーゼルを積む素っ気ない内外装の最廉価モデルだが、設計から生産まで自社で手がけたというエンジンが絶品。軽油で回っているとは思えない、ロードノイズと聞き間違えそうな静かなエンジン音に驚く。トルクは十分で、起伏に富んだ山道を走っても非力さを感じることはない。さすがに高速道路ICからの合流ではアクセルを床まで踏み込む必要があるが、一度流れに乗ってしまえばアクセルに軽く足を乗せるだけの低回転で巡航する。また、押し出しの強いボディーに収まると一見貧弱に見える18インチのタイヤは、乗り心地が絶妙なソフトさで、国産車にも負けない優しい乗り心地。走行モードを最もスポーティーなモードに切り替えても、アクセルレスポンスにさほど過激さは感じないが、それが逆に上品で好感が持てる。
派手さは乏しいものの、質実剛健さと仕立ての良さを感じさせる高剛性ボディーとディーゼルエンジン――。いずれも簡単そうで高いレベルの技術力と生産管理が必要だ。それを自社開発でさらりとやってのける懐の深さこそが英国車の真骨頂だろう。国民投票によるEU(欧州連合)離脱決定が自動車の国内生産や輸出入にどう影響するかは不透明な部分が多いが、EU域内で国外資本傘下という状況下でも守り通した英国車らしさだけは、どうかそのままであってほしい。(北林慎也)