一塁側アルプス席で「ダッシュKEIO」を演奏する常総学院の吹奏楽部員ら=18日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場
熱戦が続く夏の甲子園。スタンドから響く定番応援曲の一つに、慶応大応援指導部が東京六大学野球での応援のために作った「ダッシュKEIO」がある。今年で誕生から50年。長く愛され、高校野球の応援でも使われている。
動画もニュースも「バーチャル高校野球」
♪ターンターン、タ、タターン、タ……
♪かっとばすぞ、オウ!
18日、準々決勝の常総学院(茨城)―秀岳館(熊本)戦。常総学院が2点を追う四回、吹奏楽部員らが詰めた一塁側アルプス席から「ダッシュKEIO」のメロディー。トランペットを吹く栗原聖奈(せな)さん(3年)は「これを吹くと『さあ行くぞ』って気分になる。甲子園でこれを吹けるのはとても気持ちいい」と話した。
常総学院は1―4で敗れたが、五回に適時打が出て一時は1点差に迫った。
ダッシュKEIOは1966年、当時慶応大の学生だった夏目清史さん(故人)が作曲した。
依頼したのは同級生で応援指導部の当時の団長、宮元寿雄(ひさお)さん(72)=横浜市旭区。ゼミも同じ親友同士だった。「早稲田は65年から迫力あるコンバットマーチを始めた。何とか対抗できる曲を作ってほしいと頼んだのです」
だが、なかなか完成の報告がない。しびれを切らして夏目さんの元を訪ねると「あ、忘れてた」。慌ててギターをかき鳴らして作曲を始めた。2時間ほど待って手渡されたのがダッシュKEIOの譜面だった。宮元さんは「ダッシュをスタンドでやるとよく勝った。縁起のいい曲でした」。
それから半世紀。今は高校野球の応援曲にもなっている。「ブラバン甲子園大研究」(文芸春秋)の著者のライター梅津有希子さんは普及したきっかけにレコード化したことを挙げる。79年にコンバットマーチとダッシュKEIOが1枚になったレコードが発売され、話題を呼んだという。
「今はインターネットを介して応援曲が広まっていく現象が見られるが、同じ役割を当時のレコードが果たしたのでは。演奏しやすいシンプルさもよかった。普及した後は各地の吹奏楽部の中で伝統として演奏され続けてきたのでしょう」
宮元さんは「親友が短時間で作ってくれた曲が50年も生きるなんて、うれしい限り」と喜んでいる。(長谷川健)