多様な人材を活用していますか?
安倍政権は「1億総活躍」を打ち出しました。人口が減っている日本で、終身雇用が揺らいできた社会で、会社は採用基準を積極的に変え、あらたな道を切り開こうとしているのでしょうか。歩んできた道が様々な人たちを、どう受け入れているのか。なかなか難しいのか。シリーズ「われら中小企業」のアンケートでは、経営者50人のうち半数近くの24人が、「多様な人材を活用していると思う」と答えました。
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ご協力いただいた50社(順不同)【北海道】武部建設、岩見沢液化ガス【東北】高田自動車学校、八木澤商店、オクト、蔵ホテル一関、シェルター、八葉水産、東穀、ヴィ・クルー、キクチ【関東】中里スプリング製作所、日本プラスター、日本電鍍工業、永瀬留十郎工場、プレジール、日本橋梁工業、コビーアンドアソシエイツ、吉村、石坂産業、アイシービー、喜久屋、セリエコーポレーション、アトム精密、エイアンドピープル、ミナロ、アフロディーテ、ウェルネスダイニング、一友ビルドテック、ユウマペイント、サンパワー、ジー・ブーン【中部】給材、ネコリパブリック、キタガワ工芸【近畿】ロマンライフ、山田製作所、中野BC、新日本テック、進和建設工業、カワキタ、梅南鋼材、三協製作所、成田塗装、日本グリーンパックス【中国、九州】エブリイ、ヒューマンライフ、お掃除でつくるやさしい未来、プレースホーム、ツシマ
■〈Yes〉 自動車リサイクルパーツ輸出「サンパワー」社長・川村拓也さん(40)
中古タイヤを取引する営業所で、知的障がいや精神障がいのある方が4人働いています。主な仕事はタイヤの仕分け。ホイールがついたまま回収した場合は機械で外し、きれいに手入れして保管します。
特別支援学校から実習にきて、ご縁のあった方々が採用に至ります。先生の助言を受けて職場環境の改善もしています。たとえば物の表記。タイヤ置き場には、サイズをはっきり書いておくことが大事です。書いていないと不安になる障がい者もいますが、表記さえしておけば、健常者と変わらず仕事ができるのです。
職場の雰囲気はよくなりました。みんなで助け合おうという気持ちが生まれてきています。
留学生の雇用も始めました。昨年はセネガル出身者を1人、今年はベトナム出身者2人を採用しました。留学生は日本での就職を望んでも、なかなか働き口がない。単純労働者ではなく、ビジネスマンとして働いてもらうことが大事です。セネガルの青年は今年、関連会社「サンパワーセネガル」を母国で設立しました。
国籍が違えど、宗教が違えど、健康状態や過去の経歴が違えど、みんなが働ける思いやりにあふれた会社にしたい。また、そういう社会になっていくといい。留学生が自分の国で貢献できれば、世界平和の一助にもなります。ビジネスを通じて世界平和に貢献できる人材の育成をめざし、今年2月には「人間力大学校」を立ち上げました。数年以内に大学院大学にするのが目標です。(本社・横浜市、社員約60人)
〈Yes〉 中小企業は、応募してきた人材にあわせて雇用スタイルを変えることができる。そこが、強みでもある。採用の段階で、同じタイプの人ばかりをとらないよう心がけている。本人の事情をよく聞いて、対応できるところは応えるようにしている。(50代・製造業)
〈Yes〉 子育て中のシングルマザー、外国人、車いすの方、性同一性障がいのみなさんも雇っている。車いすの社員向けには、スロープをつくった。性同一性障がいについては、すべての従業員が理解を深めるようにしている。(40代・製造業)
〈Yes〉 女性の正社員は、産休後も同じ役職や立場で働き続けることができる。現在、女性正社員7人のうち4人が既婚者で、3人がお母さん。子どもの病気や、学校の行事などでの休暇や遅刻には、社内の理解で柔軟に対応できる体制を整えた。(50代・製造業)
〈Yes〉 児童福祉施設のほか、少年院や刑務所から出てきた人たちも働いている。仕事が長続きするように、1人1部屋の寮を完備したり、いっしょに食卓を囲んだりしている。また、社会福祉士らを非常勤で雇い、フォローをしてもらっている。(40代・サービス業)
〈Yes〉 1級建築士の有資格者、大手企業や自治体の退職者、青年海外協力隊としてアフリカで井戸掘りをしてきた女性など、積極的に中途採用をしている。設計、営業、総務といった、それぞれの得意分野に配置し、活躍してもらっている。(60代・製造業)
■〈No〉 食品包装資材製造「吉村」社長・橋本久美子さん(56)
お茶屋さん向けに、お茶っ葉を包むパッケージをつくっています。
会社と従業員が相思相愛である、がモットー。派遣社員として2年ほど働いてもらい、「相思相愛」と判断したら正社員に、というパターンが多い。ここで初めて履歴書を見ますが、はねることはありません。
はじめから正社員として採用するときも、学歴ではなく、相思相愛になれるかどうか、が基準です。
その結果、落ちこぼれもふつうにいます。元ヤンキーがいつも考えてきたのは、警察の目からどう逃れようか、ということ。そのためか、発想が豊かです。機械がうまく動かなかったとき、小さな鏡を機械の内部に入れて原因を発見、動かすことに成功しました。
うつになっても部署を異動して勤め続けてもらっていますし、子育て中の女性社員は13人います。
結果として、いろいろな人材が集まっていますが、多様な人材活用という点では、受け身でした。なので数年前から、知的障がいのある方を積極的に雇うようにしています。誤発送は会社の信用にかかわる一大事ですが、物流センターで働く彼らは間違えません。そして、まじめさや純真さは、自己中心的な私たちへの戒めにもなります。
これからは、外国の方も含め、ダイバーシティー(多様性)経営に本腰を入れます。新たな発想で未来を切り開いてくれるでしょう。堂々と「さまざまな人を積極的に採用している」と言えるようになりたいです。(本社・東京都品川区、従業員209人)
〈No〉 Uターンで地元に戻ってきたい学生で、外国語を話せる人材を優先的に採用している。本当は、中途入社や他府県の方々も多く採用したい。こうした方々を迎え入れる社内文化をつくろうとしているが、なかなか根づかない。(40代・製造業)
〈No〉 ほとんどが中途採用で、人材を選ぶ余裕もない。応募してきた人をとりあえず採用し、その人物を見極めるしかない。3K職場で、大きな負債を抱え、かつ収益性も低い。高い給与を払うこともできていない。(40代・製造業)
〈No〉 経営方針に「ダイバーシティー経営」を掲げ、女性や高齢者、障がいのある方も活躍できる労働環境づくりをめざしてきた。女性と高齢者はおおいに活躍をしている。しかし、障がい者の雇用実績は途切れている。(50代・サービス業)
〈No〉 ホテル業は年中無休で、かつ24時間営業。お客さまのご要望に応えるには、覚えることは多い。社員の負担を軽減する努力を重ねているが、人材確保さえもたいへんだ。現時点で、人材の多様性を求めることはできない。(50代・サービス業)
■大企業顔負けの取り組みも
アンケートへの回答が「Yes」か「No」かにかかわらず、多くの会社が人材活用の工夫をしていました。仕事と子育ての両立をサポートするために企業内託児所を設けたり、外国人留学生のインターンシップを受け入れたり。大企業顔負けの意欲的な取り組みも記されていました。大きくはない会社だからこそ、社員一人ひとりを大切にし、働きやすい職場環境を整える。簡単ではありませんが、企業のこうした取り組みが社会を元気にするのだな、と思いました。(吉沢龍彦)
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◆編集委員・中島隆と吉沢が担当しました。