小本川沿いの岩手県岩泉町袰綿(ほろわた)地区では、国道へ続く橋に流木が乗り上げた。住民はその上を行き来していたが、この後、流木は重機で撤去された=1日午後1時13分、福留庸友撮影
9人が亡くなった岩手県岩泉町の高齢者グループホームの地区で、県が浸水想定区域の指定を検討しながら東日本大震災などの影響で先送りしていたことがわかった。深さ2~5メートルの浸水を想定していたが、避難計画は作成されなかった。
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水害に備えるための水防法は、最大規模の降雨で河川が氾濫(はんらん)した場合に浸水が想定される地域を「浸水想定区域」に指定するよう国や都道府県に求めている。浸水想定区域がある市町村は、洪水予報の伝達方法や避難場所といった円滑な避難に必要な情報を記載したハザードマップを作成する義務が課せられる。
一方、指定区域の高齢者施設には、避難計画を作る努力義務がある。「避難勧告」や「避難準備情報」などの防災情報に応じて、必要な対応と避難先などを定めることになっている。今回は30日午前9時に避難準備情報が出ていたが、グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」に避難計画はなく、30日夕に濁流が押し寄せた。
今回氾濫した小本(おもと)川を管理する岩手県は、2009年から2年間の調査で、施設のある乙茂(おとも)地区を対象に浸水想定区域の指定を検討していた。浸水の深さは「2~5メートル」と想定しており、実際に同規模の浸水があったとみられている。
しかし、指定直前の11年3月に発生した東日本大震災で事情が変わった。内陸部を含めた広範囲の地盤沈下で調査の前提が変わり、沿岸部の復旧、復興が優先された。同年9月には近くの別の介護施設や工場が床下浸水する水害もあったが、その後に県内の別の河川で氾濫があった事情も加わり、小本川の区域指定は後回しになったという。
県の担当者は「区域の指定は一度に全部できるわけではない。市町村には日頃から雨量の情報に注意を払ってもらいたい」と話す。
国土交通省によると、浸水想定…